夢と現実
遠き日の夢
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夢の中の彼女は中学生だった。
明るく元気とまではいかないけど、
素直で頑張り屋だったのではないかと思う。
友達と楽しそうに遊んで、恋の相談に乗ったりして…
それなりに世渡りはできているようで、
楽しそうだった。
思春期が遅れているのか、
顔も身体つきもはっきりしていない。
だからもう少しすれば身長が高くなるのだろうと言われていたが、
その時の少女は見当もつかなかった。
そんな少女は受験生だった。
高校進学のために夢と希望を膨らませて、
受験勉強にひーひー言っていた。
出来はあんまりよくないらしい。
それでもそれなりに頑張って成績は中くらいだった。
そんなとりわけ特別でもない、どこにでもいるような少女だった。
けれど少女なりに人生は謳歌していたようで、
多分、幸せだったのだろう。
夢の中の少女は見る限りそう見えるし、
彼女も少女が楽しんでいたと記憶している。
夢の中の彼女は中学生の少女だった。
彼女は何度も何度もその少女の夢を見た。
あたたかい家族、じゃれあえる友達、夢を同じにする仲間。
毎日を楽しそうに過ごす少女は彼女にないものを持っていた。
自分とは違う世界で生きている少女。
その少女の夢を見るのは、
彼女なりの希望だったのかもしれない。
夢の中の少女は幸せそうだった。
だけど途中で少女の世界が一変する。
突如現れたバケモノに世界が壊されていく。
少女は怖くて怖くてしょうがなかった。
それでも誰かが助けてくれるかもしれない。
何とかなるかもしれない。
そんな浅はかな希望を胸に、少女は震えながら待っていた。
「一緒に逃げよう」
誰かが言ってくれた気がしたのだ。
だけど少女はそれを待つ事はできなかった。
バケモノは容赦なく少女を呑み込んだ。
そこで少女は現実を知る。
新しく広がる見慣れぬ世界。
この世界は戦わない者に容赦がない。
武器を持たなかった少女は傷を負うしかできなかった。
身体に負った傷の痛みは少女を夢から覚めさせた。
心に負った傷は助けを待つなと言う。
自分の目で見ろと言う。
自分の足で立てと言う。
自分の力で歩けと言う。
自分の意志で戦えと言う。
いつまでも子供のままでいるなと、世界は少女を無理矢理大人にした。
「随分懐かしい夢」
たまに見る少女の夢。
それは既に擦れてしまって断片的にしか思い出せない。
だけど彼女は嫌な予感がした。
ズドーンッ
遠くから爆撃音。
一気に桜花の頭は覚醒した。
今は戦争中だ。
つまらない夢に想い馳せている場合ではない。
「イルガー相手でも大変なのに下から兵がうじゃうじゃくるな。
これはやべーかもな」
隣の同僚が呟く。
皆同じ考えなのだろう。
顔が暗かった。
桜花も状況は分かっている。
正直逃げ出したい。
だけど状況はそれを許してはくれなかった。
であれば、やるべき事は決まっていた。
「私は行く」
「おい、死に急ぐ気か?」
「そんなわけないでしょ」
ここまで来た。
どんなに汚れてもここまで生きてきた。
だからとことん生きてやる。
「私は死にたくない。
生きるためならなんだってやってやる」
それは彼女の揺らぐ事ない信念―――。
20150412
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