夢と現実
夢の続き

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暗い暗い夢の中。

これはいつかの少女の夢。
その続き…。

バケモノに呑み込まれた少女は目を覚ましたら違う世界にいた。
そこにいたのは宇宙人でどうやら彼等に攫われたらしい。
宇宙人は攫ってきた人を兵士として育てるのが仕事で、
育った兵士を戦争に駆り出すのが目的らしい。

怖くて震える少女。
そこには自分と同じように人間が何人もいた。
怖くて辛かった。
そんな中少女は自分と同じ少女と知り合った。
同じ境遇がそうさせるのか二人はすぐに仲良くなった。
お互いを支えあういい仲間で共に戦場を駆け巡り、
他愛ない話をして笑い合う仲の良い友になった。
少女にとってかけがえのない存在だった。

だけど少女の友達は突然、姿を消した。

死んだ。
簡単に、死んだ。
そう、殺されたのだ。
同じ境遇の少女(私)に。
そう、殺したのだ。
自分が弱いせいで犠牲にしたのだ。

少女は友達を殺して一人、大人になった。


大人になった彼女は違う国で仲間を作った。
戦うためだけの仲間。
契約上の仲間。
もう、同じ轍は踏まないと誓ったからそれ以上の関係は築こうとしなかった。
なのに踏み込んできた男がいた。
女にしておくのは勿体ないと自分を見てくれる男がいた。
困ったことがあったら駆けつけると男は言った。
そして少女が窮地に立たされた時に駆け付けてくれたのだ。
そして言う。
俺たちは友達だと。

そう言った男は今、
彼女の隣で肉の塊になっていた。
裏切って彼女を刺した男は、別の誰かの剣で殺された。

夢は終わったけど世界はまだ続いていた――…。


「うわー心臓一撃。
太刀川さん容赦なさすぎ」
「いや、コイツが弱すぎるだけでしょ。
まだこっちの方が斬りがいがあった」
太刀川は倒れている彼女、桜花を指して言う。
「この人、ギリギリ心臓から外れてたみたいですね。
トリオン器官も破壊されていないし、単にトリオン漏出とショックによる気絶かと」
「わー何それ、かっこ悪ぅー」
「菊地原」
「だってそうじゃないですか。
この人、風間さんたちの攻撃は凌いだのに、この男にあっさりやられたんですよ?
意味分かんない」
「菊地原、お前聞こえていたんだろう」
「そうですよ。コイツが寝返ってこの人嵌めたみたいですよ。嫌な奴だなー」
この国は今、戦争中だ。
そういう事もあるのは当然だ。
だが、許容できるかといえばそれは全くの別問題である。
生身になっている桜花の身体からは血が流れている。
男が自分が刺した剣を抜かなければ彼女の心臓が貫かれる事になり、
即死しただろう。
それは不幸中の幸いか…だが、どのみちこのまま一人ここで放置されれば、
間違いなく彼女は死ぬのだろう。
ちょっと後味悪いが、任務遂行が優先だ。
風間達の目的が達成されている今、余計なことはせずに帰還するしかない。
が、この男、何を考えたのかひょいと彼女を抱きかかえる。

「何やってる太刀川」
「えーだって可哀想でしょ」
「太刀川さん、建前はいらないっすよ。本音はなんですか?」
「俺、コイツと真剣勝負したい」
「ふざけたこと言うな。コイツは近界民だ。無理だ」
「捕虜にすればいいじゃん。
それにコイツが持っているトリガーも持って帰れるしいいんじゃねぇ?」
「いや、遠征艇大きさに限りあるから、無理でしょ」
「同情か?後で痛い目みるぞ」
「大丈夫大丈夫、責任は俺が持つから!」
太刀川のそれは拾った捨て犬の面倒を自分で見ると駄々をこねる子どものソレと同じだ。
迅までとはいかなくとも、彼の直感は本能に近い。
ここまでくると溜息の一つや二つ、つきたくなる。
「俺は知らん。責任はお前が持てよ」
「流石風間さん」
ご機嫌な太刀川に風間はまた一つ溜息。

「遠征艇に乗れ。出るぞ」

門が現れる。
彼女は太刀川に担がれ、そのまま船に乗る。
そして、彼女が乗った船は消える…。
これで何度目になるのか…桜花はこの世界から姿を消した。


20150412


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