テイク・イット・イージー

愛空くんにはオフの日がある。
サッカーがお休みの日ってだけじゃなくて、友達と遊ぶのも、デートも、メッセージのやりとりも、全部全部お休みで一日中ごろごろする、正真正銘のオフの日。


そろそろかな、という時が最近はわたしにもわかるようになってきて、多分明日はオフの日だな、と思ったわたしは前日の晩から早々にベッドに潜り込んだ。明日は早起きしないといけないからね。
オフの日はわたしの方が先に目が覚めるから、いつもわたしよりはやく起きる彼の寝顔をじっくり見られるチャンスなのだ。


目論見どおり、寝起きでぼやけた目を隣にうつしたときには愛空くんは穏やかに眠っていた。すやすや寝てる愛空くんはちょっとだけ口が開いてて、ちっちゃい子みたい。かわいいな。普段は大人っぽくて余裕綽々って顔をしてるけど、寝顔はあどけなくて年相応、というより幼く見える。髭のある大男見てかわいいもないけれど、こればっかりは惚れた欲目だ。頬をなぞってそのまま髭を触ってみたり、少し硬い髪に指を通してみたり、目元を撫ぜてみたり、そうっと、それでいて欲望のままに手を動かしていく。たのしい。愛空くんはたまにわたしのほっぺをむにむにして遊んでるけど、その気持ちがなんとなくわかる。ああいうときの愛空くんはひどくやさしい目をしてわたしのことを見つめるけど、きっと今のわたしも同じ目をしてるんだと思う。指先からきみが大事だって伝わればいい。


ひとしきり堪能したところで、そろそろ朝ごはんの準備をしよう。今日の早起きの理由は寝顔を観察するためだけじゃない。そう、わたしが愛空くんをお世話するのだ!
鼻の頭に軽くキスを落として、立ちあがろうとした。のに、後ろから腕を引かれてまた頭が枕に逆戻りする。わ、と悲鳴をあげながら隣の犯人を見ると、目元がぽやぽやしていて、それでも確かににやついた顔でわたしを見ている。


「ナマエちゃんのえっち」
「ええ、寝たふりのほうがえっちだとおもう」
「さすがに起きるよ、あれは」
「じゃあまた寝て、わたし起きるから」
「いいじゃん、もうちょっと寝よ?」
「やだ、ホットケーキ焼くの。離して」
「ん、だめ。ここいて」


だめじゃないでしょ。だめ。といつもより低い寝起きの声で駄々をこねる愛空くんは、いよいよ私を抱き込んでしまって動けない。ずるい、実力行使だ。諦めずにもぞもぞするわたしを見て愛空くんはねむたげにちょっと笑って言った。


「起きたら、つくってあげるから」
「愛空くんが?」
「うん」
「今日オフの日じゃないの?」
「ん……?休みだよ?」


んん、噛み合ってない。わたしが勝手にオフの日って命名してるだけだから、それはそうなんだけど。
いつも気がついたらわたしが面倒見られてるから、こういう日くらいはお世話したいのに。と思っても、愛空くんがとんとんと寝かしつけるみたいに手を動かすから、どんどんまぶたの上下がくっついていく。


「きょうは、わたしが愛空くんのめんどうみるの……」
「ナマエちゃんが?むりでしょ」
「むりじゃないもん……」
「いいから、ナマエちゃんはいつもみたいに俺に面倒見られてて」
「うう……」


やっと動かなくなったわたしをみて、彼は満足そうにわらって、やり返すみたいに鼻のてっぺんにキスを落とした。もう、やっぱりわたしは愛空くんに勝てない。
しょうがない、次に目が覚めるころには愛空くんがわたしのためにホットケーキを焼くいい匂いがしていることでしょう。それならわたしは隣でコーヒーを淹れよう。愛空くんはブラックで、わたしの分は甘いカフェオレにして。
二度寝の誘惑に抗えるわけもなく、わたしたちは朝日がほとんどてっぺんに登ってしまうまでこんこんと眠り続けた。ブランチっていうのも、たまには悪くないんじゃない?

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