02.先輩は小悪魔(紫原 敦)


学校帰り、愛読しているファッション誌を買うためコンビニに立ち寄った。お目当の雑誌を無事手に取りレジに並ぼうとすると、お菓子コーナーにバスケ部の後輩、紫原敦がしゃがみこんでいた。私の存在に気付かないくらい真剣にまいう棒を見つめている。左手にまいう棒を握りしめ右手の指は何度も折ったり伸ばしたりしていてうーん。と唸っていた。

「あーつしっ」
「あ。名前ちん」

同じく隣にしゃがみこんで、「なにしてんの?」と聞いてみると、どうやらお菓子の買いすぎで早くも今月の生計が苦しいらしい。残りのお小遣いでいかにたくさんお菓子を買えるか計算してたとか。か、かわいすぎるんだけどこの子…!

「ちなみになにがほしいの?」
「んーポテチは絶対ほしくて、あとは板チョコとーまいう棒とー…あーこの新味も気になるなぁ」

うん、そりゃ破産するよね。

「でも無理だからあきらめる…」

ポソッとそう小さく呟いて肩を落とししょんぼりレジに並ぶ姿はとてつもない悲壮感を漂わせていた。そんな姿になんとも言えない気持ちになってしまう。

「今からこのカゴに500円分好きなもの入れていいってゆうルールにします!」
「えーでも」
「制限時間5分ね。はいスタート!」

敦は一瞬遠慮を見せたものの、無理矢理カゴを持たせると子供のようにはしゃいであちこち選び回っていた。


「…結局ほとんどまいう棒じゃん!」
「お金ないからさーとりあえず量稼がなきゃと思って」
「あはは、そっか。あ、じゃあこれもあげる」
「ん?なーにー?」
「今日うちのクラス調理実習で、クッキー作ったんだけどよかったら」
「ありがとー!!」

敦は目をキラキラ輝かせて丁寧に両手でクッキーが入った袋を受け取った。そこまで喜んでくれたらこっちもあげ甲斐あるなぁ、思わずふふっと笑みが零れる。

「ねえ今食っていーい?」
「うん、いいよ」

よっぽどお腹空いてたのかなぁ、ほんと子供みたいでかわいいなぁって見つめているとクッキーをひとつ食べ終わった敦がいきなり抱きついてきた。

「え、敦どうしたの!?」
「ちょーうまい…」

美味しければ抱きつくのかこの子は。あなどれんなぁ、将来ヒモとかにならなければいいんだけど…。なんて思いながらも耳元で響く彼の声に一瞬ドキッとしてしまったのも事実。私としたことが。

「ほんと?よかったー」
「名前ちん料理上手だねー」
「ありがとう。褒めてももうお菓子無いよ」
「ちぇ」

唇を尖らせて拗ねた表情もかわいくてほんと癒される。身体はこんなに大きいのに子供みたいで、なんてゆーか、ギャップ萌え。意外とモテたりして。

「敦ってかわいいよね」
「そーおー?俺は名前ちんのほうがかわいいと思うけど」
「え?」
「それに、かわいいって言われても全然嬉しくねーし。どーせならかっこいいって言ってよね」

ぶーとほっぺたを膨らませて顔を近付けてくる敦がやっぱりかわいくて、「ふふ、ごめんごめん」と頭を撫でると敦はまたムッとして私の手首を掴んだ。

「だーかーらーさー」
「んっ」

ムスッとした敦の顔が近づいて、瞬間キスされた。

「…子供扱いしないでって言ってるじゃん。俺だって男なんだからね」

真剣に見つめてくる敦の表情は、いつもの無邪気でかわいい後輩ではなく本当に男の人って感じがして、動けなくなって、黙っていると敦はまた唇を重ねてきた。さっきよりも長く合わさった唇を開かされて、温かい舌が口内に侵入してきて、敦の服を掴んで抵抗したけど逞しい彼の身体はびくともしなくて。目を閉じて、ゆっくりゆっくり私の舌を絡め取る彼はすごく色っぽかった。ギャップ、ありすぎでしょ。

敦って、私よりよっぽど小悪魔かも。