03.先輩は小悪魔(緑間真太郎)


うちのバスケ部は強いのに、マネージャーの私ってほんと特別な能力とか取り柄ないなぁ…と近頃考えることが多い。

新入部員の一軍の子達は「キセキの世代」と言われていて、本当に常人離れした才能があって、それを間近で見ているからか余計に自分でいいのかと思ってしまう。

そもそも虹村君は、なんで未経験の私なんかをマネージャーに誘ったんだろう。私より向いてる子なんてたくさんいたと思うんだけど。もしかして、その時からもう私のこと好きだったのかな。

なんてただ考えてばかりいても仕方ないのでお昼休みに図書室に来てみた。バスケ部のマネージャーになると決めた日から、虹村君にバスケのことについて教えてもらったり、本を読んで体のことについて調べたり、保健の先生にテーピングの巻き方を伝授してもらったりなど、自分なりに努力はしているつもり。

それでも日々成長する彼らに自分も今のままではダメなんだと考えさせられて、今日はマッサージのパターンを増やそうと図書室に勉強しにきた次第である。

いくつかそれっぽい本を手に取って、どこに座ろうかなーって考えていると、噂のキセキの世代のひとりである緑間真太郎が窓際の席で本を読んでいた。絵になるなぁ…。

「ここ、座っていい?」
「どうぞ」

短い返事をするとメガネを中指でクイッとあげてまた本に目をやる。真太郎は真面目で口数が少ないからか苦手意識を持たれやすいけど、私は意外に真太郎といると落ち着くから一緒にいるの嫌いじゃないんだよね。

本に書かれていることをイラスト付きでノートにまとめカリカリ書いていると、真太郎がチラチラ見てくる視線を感じた。

「マッサージのパターン増やそうと思うんだけど、真太郎どう思う?」

視線はノートにやったままそう問いかけてみた。やっぱり選手の意見がいちばん参考になるし、真太郎は特に率直な意見とか言ってくれそうだから。

「助かります」
「そ?よかったー。私に出来ることって少ないからさ、なんかもっとしてほしいこととか意見あったら遠慮なく言ってね」
「はい。ですが先輩は今でも十分よくやってくれていると思います」
「あはは、優しいね真太郎は。ねぇ、早速ちょっとマッサージの練習させてもらってもいい?」
「はい、かまいませんが…」

急なお願いに動揺する真太郎を、「図書室は静かにしなきゃだから、あっち行こう」と誘い手を引いた。

隅っこにある人気のない席に着くと真太郎の隣に座り向かい合った。

「ここじゃ全身のやつは出来ないから、とりあえず右腕貸して」

ブレザーを脱ぎ、素直に出された腕を握る。筋肉質だけど綺麗な腕。この腕であのすごいシュートを打ってるんだ、と改めて思う。メモしたノートを見ながら手を動かし、「どう?気持ちいい?」と聞くと「…はい」と顔を赤く染めた真太郎が言った。あ、今えっちなこと想像したでしょう。

意地悪したくなって、「気持ちいいか気持ち悪いかで言ってよ」と言ったら「き、気持ちいいです…」と素直に言った真太郎が純粋でかわいくて抱きつきたくなったけどなんとか衝動を抑えた。あぶないあぶない。

「ねぇ、さっきから気になってたんだけどさ。そのクマちゃんのぬいぐるみ、今日のラッキーアイテム?」
「当然なのだよ。…です」
「ふふっ、別に敬語使わなくてもいいって前から言ってるでしょう?」
「いや、ですが目上の人は敬わないと」
「大輝とか敦は遠慮なくタメ口なんだから気にしなくていいのに」
「あんな世間知らずの馬鹿共と一緒にされたくありません」
「あはは、真太郎容赦ないね」

真太郎といい敦といい、バスケ部には変わり者が多くて今まで出会ったことのないタイプだから面白い。こういう人が誰かを好きになったらどうなるんだろう、単純に興味あるなと思った。

「真太郎ってさ、好きな人とかいるの?」
「な、なな、何を急に!!」
「いいじゃない教えてくれたって」
「そんなもの、いないし興味もないのだよ!」
「えー。かっこいいのに勿体無いね」
「……!じ、冗談はやめてください」
「本当のことだよ。あーでも真太郎話しかけづらいオーラ出してるもんね、ちょっと変わり者だし」
「ぐ、それは…まあ、よく言われますが自分はこれが通常なので」
「別に直せって言ってるんじゃないよ。私は努力家で、毒舌だけど面白くて、優しい真太郎好きだな」
「それはどういう…!?」
「あ、そろそろお昼休み終わっちゃう。またね、真太郎」

戸惑う真太郎を残して図書室を出た。大輝や敦と同じくらい興味をそそられる真太郎。「好き」という言葉ほど大きい気持ちはないが嘘でもない。魅力的な男の子はみんな好き。真太郎は恋愛に疎そうだからこれくらいハッキリ言わないといつまで経っても進展しなさそうだと思ったからあえて早めにそう告げたっていうただそれだけ。

さっきの私の言葉を頭の中で何度も繰り返して、意味を考えて、どんどん意識してね、真太郎。