ep02.青峰大輝(17.10/10〜18.01/10)


「ごめんね、せっかくの休みなのに」
「別にいいって、気にすんな」

季節の変わり目だからなのか無駄に流行りに乗ってしまった私は見事に風邪を引き貴重な休日を台無しにしてしまう。社会人になって数年が経ち、お互い忙しくて休みが合う日が少ないから今日を楽しみに洋服まで新調したというのに、まさかスッピン赤ら顔にパジャマ姿で彼氏と過ごすことになるなんて。でも無理して出掛けられるような状態ではないし…寒気と頭痛が酷くて昨日から熱も出てる。おまけに声も枯れてしまいろくに話も出来なくて、もはやお家デートじゃなくて完全にただのお見舞い状態。私はゆっくり休めるし大輝が側にいてくれるってだけで安心出来るからいいけど、大輝はつまんないよね。

「お台場デート、行きたかったな」
「治ったらいつでも連れてってやるよ。だから大人しく寝てろ、昨日から熱あんだろ?言ってくれりゃ仕事終わってからすぐ来たのに」

大輝に促され布団に入るとそのすぐ横に大輝が座って心配そうに話しかけてくる。そんな大輝は朝がすごく弱いのに早朝から私のアパートに来て車で病院に連れてってくれた。お金まで出してくれたのはさすがに申し訳ないから今度何かお礼しなきゃね。

「つーか、無理しすぎ。熱ある時くらい早退しろよ」
「だって、会社の人に迷惑かけらんないし。それに私、結構負けず嫌いなとこあるから変に意地になっちゃって」

へらっと笑いながらそう話すと大輝の顔も緩んだ。

「マジメかよ。ま、お前のそーゆーとこ結構好きだけど」

さり気なく嬉しい発言をして頭にポンと手を乗せてくる大輝。ああ、好き。知り合ったばかりの頃に比べて大輝はかなり丸くなったし最近は特に優しさに磨きがかかっている気がする。だから会えた時はすごく幸せだし、逆に会いたいのに会えない時はすごく寂しい。こんなワガママ、決して口に出しては言えないけれど。一緒にいれる貴重な時間はポジティブな言葉だけ発していたいし大輝にも私といると楽しい幸せって思ってほしいから。

「ふふ」
「なんだよ…」
「なんか大輝に優しくされて幸せだなーと思って」
「ばーか。俺はいつも優しいだろ、お前には」
「そうかなー」
「あんま生意気言ってっと襲うぞ。病人なんだから大人しくしてろ」

そう言うと大輝は身体を私のほうに近づけて顔の横に腕をつくとキスしようとしてくる。

「…だめ、大輝にうつる」

人差し指を大輝の唇に当ててストップをかける。大輝にこんなつらい思いさせたくないし、大輝も今は仕事絶対休めないって前に言ってたし。

そんな私の心配をよそに、大輝は「別にいい」と言って手首を掴むと強引に、でも優しく私にキスをした。何度もキスはしたことあるし、それ以上のことだってたくさんしてきたのに未だにドキドキしてしまう。唇が離れて近距離で見つめ合っていい雰囲気…ってところで空気の読めない私のお腹は大輝に聞こえるくらいの音量で鳴いた。

「ははっ、ムードぶち壊し。まーでも確かに腹減ったよな、昼飯食うか」

ただでさえ熱で火照っている顔が恥ずかしさのせいで更に真っ赤になったので布団で顔を半分隠してコクリと頷いた。

「じゃあ待ってろ、俺がなんか作ってやる」

そう言って大輝は私のおでこにチュッとキスをした。やることがいちいちイケメンすぎて困るのですが。てゆーか…

「大輝って料理したことあったっけ?」
「あるわけねーじゃん。まーでも粥ぐれえ作れんだろ。鍋に飯と水入れて温めりゃいいんだよな?」

いや、あながち間違ってはいないけどものっっすごい不安なんですけど。

「お米炊いたことある?」
「無ぇ!!」

そのレベルでお粥作ろうとしてくれたことに逆に感謝だよ…

「炊飯器の中のやつ出して、そこにカップ2杯分くらいお米入れて、水が透明に近くなるまで洗うの。そこまで出来たら教えて?」
「簡単じゃねーか、任せろ」

任せろと言われて若干の不安を抱きつつもうとうとして少し寝てしまった。…あれ、大輝まだやってんのかな、さすがに時間かかりすぎじゃない?

重い身体を起こしてキッチンへ行くと大輝がまだお米を研いでいた。

「大輝、もういいんじゃない?」
「でもよー泡がなかなか無くなんねーんだよ」
「あ、泡…?」

恐る恐る手元を覗くと綺麗に洗浄されたお米と確かに泡が。

「ねえ。まさかと思うけどこの食器用洗剤使った…?」
「おー」
「………」

どこのおバカキャラですかそれともドジっ子ですか。大輝がバカなのも料理未経験なのもわかってたことだけどまさかここまでとは。あー…頭痛くなってきた…

「…なんだよ?」
「お米は洗剤で洗っちゃだめです。青峰さんおわかり?」
「は?だって綺麗に洗うっつったら洗剤は必須アイテムだろーが」
「そうなんだけどね、洗剤は食べれないでしょ?」
「マジか…」

大輝がショックを受けているようでなんだか可哀想に思えてきた。大輝なりに頑張って私にご飯作ろうとしてくれたんだよね、その気持ちだけで本当は十分なんだよ。

「とりあえずコンビニ行ってテキトーになんか買ってくるわ。お前は寝てろよ」
「う、うん…」

いつもはスーパー面倒くさがりなのに今日はやけに頑張るなあ、と思いながら言われた通りベッドに戻る。お米は勿体ないことしたけど、大輝が必死にお米洗ってたとこ想像するとなんか心が温かくなる。今度一緒に料理とかしようかな、なんて考えながら瞼を閉じると深い眠りにつく前に玄関がガチャリと開いた。

「ん…おかえり」
「ただいま。色々買ってきたぞ、どれにする?」
「んーじゃあこのフルーツが入ってるゼリーのやつ」
「…は?そんだけ?さっきあんだけ腹鳴らしてたのにそんなんじゃ足りねーだろ」
「もう、一言余計なの。今あんまり食欲ないからこれだけで大丈夫だよ」
「お前がいいならいいけどよ。まあこんだけありゃしばらく外出なくて済むしな」
「うん、ありがとね」

ゼリーを手に取るとベッドに座ってきた大輝に奪われ口を開けるよう目で訴えられる。手はすでにゼリーを乗せたスプーンを構えていて、いつでも「あーーん」が出来る状態だ。

「ふふ、こんな強制的なあーん初めて」
「は?じゃあふつーのあーんはあんのかよ」
「さぁね」
「答えねーならこれは没収」
「はぁ…あるよ。でもすっごい前の話」
「…ふーん」
「怒った?」
「別に」
「じゃあ、あーんして?」

口を開けて待つと少しの間の後大輝が口に入れてくれた。

「おいひい」
「そっか」
「やっぱりまだ怒ってる。大輝だって元カノとかいるでしょ?」
「いるけど…なんかむかつく」
「さっきはああ言ったけど元彼のことなんて忘れてたよ。今は大輝しか見えてないもん。これからはずっと大輝だけだよ?」
「…俺も」

大輝はゼリーのカップを置くと私の後頭部に手を添えてキスをした。私のほうこそこんなかっこいい人が彼氏で不安がないわけないじゃない。いつか大輝好みの巨乳肉食系女子が入社してくるんじゃないかってひやひやしてるってのに。

「ねえ、一緒にお昼寝しよ?」
「あ、ああ…」
「え、やだ?まだ怒ってる?」
「いや…なんつーか、会うの久しぶりだし、一緒に布団の中入っちまったら抑え効かなくなりそうで」
「えっ…」

思わずまた顔に熱が集中する。私だってこんな状態じゃなかったら大輝とシたいけど…いやでもまさか大輝がそんな我慢してたなんて…な、なんか意識しちゃってどう返したらいいか困る。

「まーいいか!どっちにしろお前は寝てなきゃなんねーんだし」
「…うん」

一緒にベッドに入ると当たり前のように腕枕をしてくれる。こうやって大輝に抱き締められながら寝るのが大好き。これから先もずっとこの腕も大輝も独り占めしたい。

「大輝…ちゅーしよ?」
「だから…お前のその弱りきった声でそーゆーこと言われると我慢出来なくなるっつってんだろ…」

覆いかぶさってきた大輝がキスをしてくれて、熱っぽい視線に捕まると唇を割られて舌を入れた濃厚なのをされる。

「ん…大輝…いいよ、我慢しないで」
「……いいの?」
「うん…大輝、大好き」
「俺も大好き…優しくする…努力はする」
「ふふ、うん…」


・・・

身体を重ねた後、私の汗を拭いて服まで着せてくれる大輝。普段から優しいけど今日はサービスが良すぎてちょっと怖いくらい。

「今日は本当にありがとね。また風邪引いたら看病してね」

ベッドの中で抱き合いながら冗談混じりにお礼を言った。

「ばーか、絶対次風邪引くの俺だろ。…だってあんなにいっぱいエロいキスしまくったんだからよ」
「もう、いちいちそーゆー恥ずかしいこと言わないで」
「俺の看病する時はナースのコスプレ付きで頼むわ!あー風邪引きてえ」
「ふふ、ばか!」

大輝の冗談…とは言い切れないおバカ発言に笑っているときゅっと手を握られた。

「…一緒に住むか」
「え?いきなり何言って…」
「一緒に住めば忙しくても毎日会えるし、こーやってなんかあった時も助け合えんだろ。つーかさ、これからは結婚を意識して付き合って欲しい」
「けっ…こん!?」

好きって純粋な気持ちで付き合って、そりゃいずれは大輝と結婚したいって思ってたけどこのタイミングでいきなりそれが現実味を帯びるとさすがに驚く。でもそれ以上に、すっごく嬉しいっていうのが素直な気持ち。

「俺だけのもんになってくれる?」
「うん…なるっ…!」

涙が今にも溢れそうで視界がにじむ。大輝は嬉しそうに笑った後握っていた私の手の甲にキスをしてまた笑った。好きだよ大輝、今も明日もこの先もずっと。