01.最推し現る


「安室さーん!また来ちゃった!てへ」
「いらっしゃい、名前さん」

はあああんこの笑顔だよこの超絶イケメン爽やかスマイル!学校にはなかなかいないからねぇ…というか町中世界中どこを探してもこのレベルはいない…断言出来る。

長時間の退屈な授業を終えた後、疲れきった体にイケメンの笑顔はほんと沁みる…。そりゃ女性客も増えるわけだ。

安室さんがポアロで働き始めてからというもの、何度も通ったり時には探偵の如く張ったりして私は安室さんのシフトをあみ出したのだ。しかしさすがにこれは蘭にも引かれそうなので、安室出勤日はさり気なくポアロへ誘導している。

「もう、名前ったら敬語使いなさいって言ってるでしょー?すみません安室さん…」
「そーよそーよ!この園子様だって目上の人には敬語使ってるってのに!」
「いいんですよ。蘭さんと園子さんも、いらっしゃい」

空調がいつもちょうど良く設定されていて、掃除も加湿もしっかりしてあって、安室さんの気配りのおかげで今日も私たちは心地良くくつろげるのだ。

「あんたらはいいじゃない、イケメンの彼氏に愛されてるんだから」
「ちょっ…そういう問題じゃ…!」
「まあまあ、妬むな妬むな」

そうだ…こやつらには巷で話題の高校生探偵と空手世界チャンピオンというイケメンハイスペ彼氏がいるのだ。それに比べて私ときたら…近所のイケメン店員のストーカーとか…うっ…張り込みしてる自分の姿想像したら泣けてきた…

「名前さんは彼氏、いないんですか?」
「それがびっくりすることにいないんですよぉ」
「自分で言ってんじゃないわよ」
「そうよー。名前だって結構モテるのに容赦なく断るからでしょー?」
「好きじゃないんだからしょうがないでしょうが」

注文を取りに来た安室さんもさり気なく女子高生の話に混ざってくれる。うむ、なんの違和感もない。安室さんが同じクラスだったらなー…と制服姿の安室さんを妄想しながらいやらしい目で眺める。

しかしこんだけ安室オタクを公言しておいてなんだが、安室さんは高嶺の花すぎて付き合う対象ではない。どのツラが言ってんだ、告られてもないくせに。と自分でも突っ込みたくなるがこれが本音だ。テレビでアイドルとか見て「きゃ!かっこいい!」みたいなね、そんな感じ。だから私は勝手に安室さんを理想の兄として懐いているのだ。ほんとにまじで勝手に。

「僕はいいと思いますよ。彼氏が出来たら名前さん、ポアロに来てくれなくなっちゃいそうで寂しいですから」
「あ、安室さん…!」

さっき長々と心の中で言ってた戯言が一瞬にしてどっかへ吹き飛びそうになった。高嶺の花でも万が一、億が一告られたら絶対付き合います…!!

営業トークという名の優しさに甘え、安室さんの腕にぎゅーっと抱きついてふざけているとカランカラン…と入り口のベルが鳴り「いらっしゃいませ」と振り向く安室さんにつられてそちらに視線をやると、スーツを着た男の人が2人入ってきた。しかも…安室さんと張るほどにイケメンじゃないか…!

「あっれれ〜?透ちゃ〜ん、キミも隅に置けないねぇ?」
「へぇ…やっぱお前、意外とチャラいな」

わああ!しかもこっち来た!なに、安室さんの知り合い!?この3人並んでたらやばい!てか、絶対あんたらのほうがチャラい!!

「君達めっちゃ可愛いね、俺らと一緒に飯食わない?」
「え!!いいんですかあ!?」
「ちょっと園子…!」

私よりも先に身を乗り出したのは園子だった。今度京極さんにチクろう、と思ったけどあの人の嫉妬深さ尋常じゃないからやっぱやめとこう。常識人の蘭が止めに入るも園子の目の輝きは増すばかりだ。

「お前らいい歳こいて相手にされるわけないだろ。僕のお客さんにちょっかい出さないでくれよ」

もう1人の常識人安室さんも呆れ顔で剥がしに入る。

「いい歳って…お前もタメだろーが。さっきこの子と腕組んでいちゃついてたくせによぉ」
「あ、それは私が勝手に…」
「いいっていいって。こいつも満更でもない顔してたしなー」
「はいはい。おじさん喫煙者はこちらへどうぞ」
「俺らこう見えても警官だから、なんかあったら連絡してね」

慣れた手つきで名刺を配るお兄さんともう1人の男の人は安室さんに首根っこ掴まれてカウンターに引きずられていった。

「なーんだぁ…残念」

本気で残念がる園子に蘭は苦笑いを浮かべる。

「京極さんに怒られるよ?」

と言う蘭に「そーだそーだ!」と加勢したが内心は園子に同意の私だ。そんな元祖イケメンハンター園子の興奮はおさまらず、

「ねぇねぇ、あの3人なら誰がタイプ?」

と女子が大好きな話題をぶっ込んできた。よっ待ってました!園子様!!!

「私はね〜私はね〜萩原さんっ」
「「だと思った〜〜」」

さっき貰った名刺を大事そうに握りしめながらきゃっきゃする園子。キッドも好きだし本来ああいうキザな感じが好きなのにほんとなんで京極さんとくっついたのか未だに謎だ。今度新一に謎解きしてもらおう。

「蘭は?」
「え〜私は……」
「新一がいるからって言うのは無しね」

食い気味に惚気を阻止する私。これはガチなんだ。ガールズトークは本音を言い合う場なのだから、妄想するだけなんだし語り合おうよ蘭ねーちゃん…!

「ん〜…やっぱり安室さんかな?あの中でいちばん優しくて誠実そうだし…」
「確かにね〜わかるよ〜」
「そういうあんたは誰推しなのよ…って、聞かなくてもわかるけどね〜」
「え?」
「あのサングラスのお兄さんだよね〜」
「んなっ…!!」

2人は顔を見合わせて「「ね〜」」なんて言いながらこっちを見てにやけている。なぜバレた…今までこんなにも安室オタを公言してきたのに!そうだ…確かに入ってきた瞬間どタイプすぎて戸惑った…安室さんも超絶かっこいいし萩原さんもイケメンだけど松田さん(盗み聞きした)は今まで出会った男の中でいちばんタイプ…!

「だって名前あからさまに緊張してたし」
「さっきから無意識にチラチラ見ちゃってるしね〜」

は、恥ずかしい…!向こうの2人はこっちに背中向けて座ってるし園子のバカデカい声が聞こえてなければ大丈夫だろうけど、心なしか安室さんとはちょいちょい目が合ってる気がす…

「名前さん、ご注文ですか?」

ちっがーう!!!わざとなのか天然なのか、安室さんが注文を取りに来てしまった。

「オ、オレンジジュース…おかわり」
「ありがとうございます。今日ちょっと暑いですもんね」
「は、はは…」

じゃあ、ちょっと待ってて。と微笑むと安室さんはキッチンへと戻っていった。

「で、どうなのよ〜?」
「やばい…めっちゃかっこいい」
「やっぱりね〜!さっすが工藤新一の嫁と推理クイーン園子様だわ!ガッハッハ!」
「もう、園子ったら…嫁じゃないってば」

とかなんとか言いながらいつも嬉しそうに照れる蘭。かわいいかよ…新一に見せてやりたい。…と思ったけどやっぱむかつくから見せたくない。

「連絡先聞いちゃいなよ〜」
「園子…!相手は大人だよ?ましてや警察の人だし…さっき出会ったばっかりだし…ねぇ?」
「うん…安室さんの知り合いだし、断られたら恥ずかしすぎてもうここに来れなくなる…」
「え〜?…まあでもそうよねぇ。あんだけイケメンで女慣れしてそうな感じなら、彼女の1人や2人いてもおかしくないか」

…ソウ、デスヨネ。しかも芸能人並みにスタイル良くてかわいいハイレベルな女の人連れてそうだし似合うもん。安室さんとタメってことはかなり歳離れてるし、相手にされないか。

安室さんが持ってきてくれた2杯目のジュースを流し込みながらため息をついた。

…いや、でも待てよ?彼女がいたらあんな風にナンパまがいのことしてくるか?いや、しないね。彼女がいたらこんな早くから男2人でご飯行くか?しかもこんなイケメンが?うん、ない。ないない。安室さんみたいにハイスペイケメンでもフリーな人だっているんだし!こんなタイプの人に次いつ出会えるかわかんないじゃん!行け!行くんだ私!!!

「じゃあ、透ちゃん。俺らそろそろ行くわ」
「ごちそーさん」
「あ!!!あのっ!!!!」

後ろで蘭と園子が驚いてるのがわかるし安室さんと萩原さんの顔も見れないし小さいお店だから他のお客さんにも見られているかもしれないと思うと死にたくなるくらい恥ずかしいけど…

「ん…?」
「連絡先、教えてほしいです…!」
「俺…?」
「…はい」
「やるねぇ陣平ちゃん」
「う、うるせぇな…」
「てか、なんでコイツなの?俺じゃなくて?」
「俺のほうがイケメンだからに決まってんだろ」
「ま、顔はいいからね〜。いいじゃん連絡先くらい、教えてやりなよ」
「あ?めんどくせー…」
「陣平ちゃんが交換しないなら俺がしちゃうけど?名前ちゃん俺のタイプだし、女子高生の彼女車で迎えに行くの夢だったんだよな〜」
「そのまま捕まりやがれ。…ったくしょうがねーな…」

松田さんにほらよと手渡されたケータイはまさかのガラケーで、アドレスと電話番号を打ち込まなければならず、現役JKの私は萩原さんに助けを求め爆笑された。早速ジェネギャの壁にぶち当たったのだ。

2人が帰った後、安室さんが「僕、連絡先聞かれてないんですけど?」って悪戯っぽく言ってきたのが可愛かった。だがその余韻に浸る間もなく、興奮した蘭と園子に拉致され事情聴取を受けることになったのは言うまでもない。

帰りにお会計をしようとすると「あの2人から君達の分も貰ってますよ」と言われ3人まとめて無事召されたのであった。恐るべしイケメン…!

・・・

そんな刺激的な出来事から早くも一週間が経とうとしていた。

来る日も来る日もメールBOXをチェックするが松田からのメール、無し!いや、私この間送ったよね?アドレス間違えてないよね?なんて送ったらいいかわかんなくてスマホに買い替えたらどうですか?って送ったのがいけなかったのかな?ああ…助けて安室さん!

「はぁ…」
「名前ったらまたため息ついてる。今日何回目よ」
「だって…」
「きっと向こうも忙しいんだよ」
「メール返す暇くらいあんでしょうが」

ポアロのカウンターで蘭に愚痴っていると入り口のドアが開き、誰かと思えば新一が入ってきた。

「なんだ…お前か」
「あ?こっちだっておめーに用なんかねぇよ」
「うるせぇ!バーローちくしょう!」
「それもはや俺じゃねーし…」
「蘭、なんでこいつこんな荒れてんだ?」
「あはは…ちょっと色々あって」
「何でもいいけど、そんな辛気臭せぇ顔してっと運も逃げてっちまうぜ?」

そう言って新一と蘭はデートに出掛けていった。ったくリア充がよぉ…

「羨ましいですね」
「あ…安室さん」
「その後、松田とはどうですか」
「もう最悪。あの人一度もメールくれないんだけど。かっこいいと思ったけど、やっぱ嫌い!」
「はは、あいつはマメなタイプじゃありませんから」
「でも好みのタイプだったら返事くらい返すよね?やっぱ私みたいな子供じゃだめなんだ」

うなだれる私に安室さんはくすっと笑うと頭を撫でてくれた。

「僕、今日はもう上がりなんですけどよかったら送っていきますよ」
「え、いいんですか?」
「はい、今日は車で来ていますし」
「やったー!」

安室さんの助手席…!もう松田さんとかどうでもいいや。あんなグラサン天パ男知らん。今後会うこともなさそうだし、忘れよーっと!

駐車場までの道も、安室さんとだから楽しい。さっきさり気なく車道側変わって歩いてくれたのとかキュンとしたし。

「どうぞ」

助手席のドアまで開けてくれる紳士的対応…!やることなすこと全てが完璧すぎる!ほんとなんでこの人彼女いないんだろう…?今世紀最大の謎だ。

・・・

「ちょっと名前!あんた何しでかしたのよ!」
「は、はい…?」

翌朝学校に着くなり園子がケータイ片手にすごい勢いで問い詰めてきた。

「あんた、SNSで炎上してるわよ」
「はいいいい!?」

情報社会、なんて恐ろしいの。安室さんのシフトあみ出すのに他の安室さんファンのSNS参考にしてたときは便利な時代だなぁとか思ってたけどまさかこんなことになるとは…!

恐る恐るSNSを開いてみると「#リアル安室の女」とかいうのが軽くバズっていて昨日の私と安室さんが並んで歩いている写真が載せられていた。

ちょ、これ盗撮やん。いつの間に…。並んで歩いてるだけだからどうとでも言い訳出来るし実際送ってもらっただけなんだけど…私としたことが、安室さんのオタクをなめていた…!


一方その頃、とある車内。

「なぁ、陣平ちゃん。この子、この間のかわいこちゃんじゃねぇか?」
「あ?」
「ほら、ポアロでお前に連絡先聞いてきた女子高生。お前、零に取られてやんの」
「うるせー。つーかあのガキ、顔が良けりゃ誰でもいいのかよ」
「はいはい、妬かないの」
「あんなガキ興味ねぇっつーの」
「だったらあからさまに機嫌悪くなんのやめてくれる?ほら、合コンセッティングしてあげるから」
「いらねーよ!」


数日後。そんなところにまで情報が回っているとは思いもしない私は安室オタの目を気にして一旦私服に着替え、帽子メガネ着用でいつもより遅い時間にポアロへと出向いた。

「いらっしゃい。ふふ、今日はどうしたんですか?珍しいですね」
「いや、この間送ってもらったのが安室さんのファンに撮られてたみたいでSNSに拡散されちゃって…」
「ああ、確かに色んな方から名前さんとのこと聞かれました」

やっぱり!でもさすが安室さん、びびりまくってる私と違ってすごく冷静だ。

「梓さんとのこともよく疑われますし、名前さんとのこともちゃんと否定しておいたので安心してくださいね」

イケメンも大変だなぁとどこか他人事のように思いながらもどうぞ座ってください、とカウンターに通されたので大人しく座る。

「もうご飯は食べられました?」
「ううん、まだ」
「それじゃあ僕がなにかご馳走しますよ」
「え、いいの?」
「今日はもうお客さんいませんし、お店のメニューにはないものを、特別に。内緒ですよ?」
「わーい!安室さんだいすきー!」

安室さんと他愛もない会話をしながら食事をしていると入り口のベルが鳴った。ちぇ、せっかく貸切で楽しんでたのに…

「よお、零」
「おい…その名前で呼ぶなって」

げ。松田じゃん…

「あ、お前…この間の」
「………」

メールシカト事件のこともありこちらもシカト返しでツーンとした態度を取ってみせる。

「おいこらガキ、なんだその態度」
「うるせぇ、おっさん。ガキって言うな」
「あ!?」

安室さんがぶはっと笑いながら「まあお前も隣座れよ、なんか作るから」と松田さんを諭す。いや、この流れでなぜ隣に座らす…!

「つーかお前らほんとにデキてんの?」
「は?何言ってんだよ」
「この間萩がSNSの写真見せてきたんだよ。あいつそういうの詳しいから」
「ああ、そういうことか」

意味深な笑みを浮かべながら調理を続ける安室さんに松田さんは不服そうな顔をする。

「なんだよ」
「いや、気になって来たんだなって思ったら可愛く思えてさ」
「あ?勘違いしてんじゃねぇよ」
「悪いけど、私もう安室さんに推し変したから」
「お前も調子乗ってんじゃねぇ」
「痛っ!」

自分がシカトした件を棚に上げてデコピン食らわしてきた松田に怒りを覚える。グラサンかち割るぞ。

「メール返さないお前が悪いんだろ」
「メール?ああ…そういや来てたな」
「ほんとサイテー」
「あのメールになんて返せっつーんだよ。バカにしてきやがって」
「現役JKが親切心で言ってあげたのに」
「余計なお世話だ。電話とメールが出来りゃ何でもいいんだよ」
「くそじじい」

ご飯中だというのに頭割れそうになるくらいぐりぐりされた。こいつ力加減ってもんを知らないのか。安室さんも笑ってないで助けてほしい。

話を聞く限り2人は学生時代からの友人で、萩原さんの他にも何人か仲のいい人がいるらしい。そういえば、よく考えたら安室さんのタメ口とか素で笑ってるのってレアだなあ。普段はこんな感じなんだ。松田さんも、意地悪なこと言わなきゃやっぱかっこいいし。安室さんと楽しそうに話す横顔を見て、悔しいけどついそう思ってしまう。

「つーかガキ、いつまで居座ってんだ。ガキは寝る時間だろ」
「ガキガキ言うな」
「もう遅いし、お前送ってやれよ」
「はあ?なんで俺が」
「僕が送ってあげたいところだけど、店の片付けもあるしね」
「しょうがねぇなあ。おら、帰んぞ」
「あ、安室さんご馳走様でした!美味しかった!」
「名前さん、松田に推し変しちゃだめですよ?」
「……!」

もう、最後までイケメンだなあ安室さんは。てか成り行きで松田さんに送ってもらうことになっちゃったんですけど…!

車の中ってなんでこんなにドキドキするんだろう。変に緊張してしまう。

「なに急に大人しくなってんだよ、気持ち悪りぃ」

こいつにムードってもんはないのか。

「じゃあなんか面白い話してよ」
「無茶言うな。つーか敬語くらい使えよ」

偏見だけど、あんたには言われたくない。

「やだ」
「クソガキ。その辺に降ろすぞ」
「むり」

そんなやりとりを繰り返しながら車はコンビニにとまる。

「煙草買ってくるわ。飲みもんくらい買ってやるから、お前も降りろ」

ちょっとはいいとこあるじゃん、と見直した私は素直に車から降りた。なんか一緒にコンビニ入るだけでも恋人同士みたいで嬉しい。

「決まったか?」
「うん、これ」

私から飲み物を受け取ると煙草の番号を店員に伝え会計する松田さん。悔しいけど、やっぱいちいちかっこいい。飲み物1つ買ってもらっただけで、今めちゃくちゃ嬉しいもん。

「松田さん、ありがと」

えへへと笑いながらお礼を伝えると、「敬語は使えねーけど礼は言えるんだな」と憎たらしい笑顔で返してきた。ぐぬぬ…おのれイケメン。腹立たしいがその顔に免じて許す。

再び走り出した車内で松田さんは煙草に火をつけた。煙草を吸いながら運転する松田さんは本当にめちゃくちゃかっこよくて思わず無意識に見つめてしまう。

「なーに見てやがる。そんなにかっこいいかよ」
「う、うっさいなあ。受動喫煙になるから家で吸えって思ってただけだし」
「あーそう。可愛くねー」

言葉とは裏腹に、窓を更に少し開けてくれる松田さん。そういうとこ、好き。そんなこんなで楽しいドライブも終わり、家に到着。もっと家が遠かったらよかったのにな、と残念な気持ちが込み上げてくる。

「あんま遅くに出歩くなよ。事件起こされると俺の仕事が増えっからな」
「危ない目にあったら助けにきてくれる?」
「馬鹿野郎、冗談でもんなこと言うんじゃねぇよ」
「また、会いたい」

松田さんの目をじっと見つめながら正直な気持ちを言う。こんな機会もう二度とないかもしれないと思うと不思議と素直になれた。

「…面倒起こすくれーなら、連絡しろ。じゃあな」

少し照れくさそうにそう吐き捨てて松田さんは車を走らせた。暗闇の中で見つめた松田さんの顔が忘れられなくて、その日はなかなか眠れなかった。安室さんごめんなさい。推し変、しちゃったかも。


・・・


「んで、名前ちゃんとはどうなのよ。この間ポアロ行ったんだろ?」
「…零の奴、覚えてろよ」
「まあまあ」
「なんもねぇよ。あるわけねーだろ」
「へぇ…そう言う割にさっきからずっとケータイ気にしてるの、自分で気付いてない?」
「あ?仕事の連絡待ちだっての…」
「あんだけ頑なにガラケーだったのにスマホに変えちゃって、可愛いねぇ陣平ちゃん」
「気分だよ気分!テメェそれ以上言ったら殺す」

別に、零に取られんのが嫌なだけだ。
あいつに負けんのはなんか癪だからな。

ただそれだけなのに、あのガキ、最後に一丁前に女のツラしやがって…気にいらねぇ。