02.JK新一と買い物へ行く


「…ったくなんで俺がお前の買い物に付き合わなきゃなんねーんだよ」
「買い物付き合うくらいで文句言うなよちっせー男だな」
「帰る」
「ちょっ…ちょっと待てーい!お主、これが目に入らぬか」
「は?…んなっ!これは…」
「ふっふっふ…」

機嫌を損ねそうになった新一を引き止めるため私が奴に見せたのはこの間蘭と園子とお泊まり会したときの蘭のパジャマ姿の写真だ。蘭の元がいいのはもちろんだが、奴にお裾分けするには勿体無いくらいとても可愛く撮れたと我ながら思う。この食いつきようからして、新一も見たことないパジャマらしい。この勝負…勝った。

「欲しけりゃ黙ってついてきな」
「クソ…」
「なんなら3人で撮ったやつもある」

私、このとき結構盛れたからこれならあげてもいい。なんなら新一の周りのイケメン達にも見せてくれて構わない。

「いらね。蘭のソロだけでいい」
「…すぞ。てか大会前じゃなかったら蘭にも来てほしかったのにー」
「あー、あいつ最近いつもに増して気合い入ってっからな」
「ま、蘭なら楽勝でしょ!応援行くの楽しみー!」

放課後、新一を引き連れてやってきたのは若者向けのファッションブランド店を多数取り揃えている最近新しく出来たショッピングモール。ここで今日は男ウケの良い洋服を頭の先から足の先まで揃えるのだ!

最近出来た話題の場所だけあって平日だというのに人がすごいことになっている。

「うげー…まじでここ入んのかよ」
「あったりまえでしょうが!あんたも報酬のために頑張りなさいよ?いい仕事したら蘭のSSR級激レア写真も追加しちゃう!」
「っし…!さっさと行くぞ」

こいつまじで蘭の名前出すとちょろいな。かわいいようなうざいような。まあ、なんでもいいや。

「わあ〜…!これかわいい!ねぇ新一、これどう思う?あ、言っとくけどあんたの趣味じゃなくて一般的男性の意見ね」
「わーってるよ。んー…女はそういうのが好きなのか?俺はあんまりごちゃごちゃしたやつよりこういうシンプルなほうが好きだけど」
「あんた…蘭の服装意識して言ってないよね?」
「い、いちいちうっせーな。男は大体そうだと思うぜ?」
「ふーん…なるほどね」
「つーか…お前もそういう相手いたんだな。そいつとどこ行くんだよ、それにもよるだろ?」

さすが名探偵、なかなかいいところをついてくる。

「場所はまだ決まってないけど…あんまり気合い入りすぎてるって思われたくなくて…でもめっちゃかわいいって思われる感じがいい」
「なんだそりゃ…めんどくせぇ」
「うるせぇ!」
「てか相手誰?俺の知ってる人だったりする?ほら、それによって好みの系統とかわかるかも…」
「そんなこと言って、相手が誰か知りたいだけでしょ。あんたに弱み握られるようなこと誰が言うか」
「ふーん…てことはやっぱ俺が知ってるやつなんだな」

こいつ、頭と勘がズバ抜けていいだけあってちょっとした言動で色々見抜いてきやがる。すごいけど時と場合によっては厄介だ…

「なににやけてんのよキモッ!」
「照れんなって〜恋する乙女は大変だねぇ〜」

人のことをにやにやしながら見下ろしてきて揶揄うこの男に一発食らわしてやりたい。今度蘭に技仕込んでもらおう。

「お前がそこまで惚れ込んでるってことは相当男前だよな…」
「ま、まあ…そりゃそうでしょ」
「学校で誰かとそういう風になってるのあんま見ねぇし…てなると安室さんとか?この間なんか噂になってたし、実際仲良いし」
「だから教えないって言ってんでしょうが」

そう言っているにも関わらず推理オタクモードに突入してしまった新一は「高木刑事、は佐藤刑事がいるし…服部…京極さん…いやみんな女いるな…」とぶつぶつ独り言を言っている。いいから服を選んでくれ。

「もー、いいから次隣のお店行こ」
「ん?ああ、おー…」

心ここに在らずの新一を引っ張って次のお店へ入る。

「あ、このワンピかわいい!同じ柄のセットアップもあるのかぁ…悩む。新一どっちがいい?」
「まあ、男ウケ狙うならやっぱワンピースは間違いねーんじゃねぇか?場所によっては気合い入ってるって思われちまうかもしんねーけど」
「あー…たしかに…」

候補としていくつかスクショしておいたモデルさんが着ているコーディネートを見返していると新一が覗き込んできた。

「あ、これいいじゃん」
「やっぱそう思う?かわいいよね」
「似たようなやつたしかさっきあったような…ほら、これとか」
「あ、かわいい!これ試着してくる!ちゃんと近くで待っててよ?」
「へーへー、わかったから行ってこいって」
「えへへ、はーい」

一応色違いも持ってこーっと。ようやく候補が見つかりるんるんで店員さんに試着室へと案内してもらう。

…わあ、やっぱすごくかわいい!当日これ着てったらかわいいって思ってくれるかなぁ、松田さん。

そう、実はこの間松田さんとラインをしているときに来週久しぶりに日曜休みと聞いて頑張って予定を取り付けたのだ。付き合ってはいないものの、これは間違いなく記念すべき初デート…!気合が入らないわけがない。というわけで男ウケ(松田ウケ)を気にして新一を連れてきたというわけなのだ。

試着室のカーテンを少し開けて新一の存在を確認すると「どう?」と声を掛ける。

「おーいい感じじゃん」
「ほんとに思ってる?」
「思ってるって、ここまで来て嘘言わねぇよ」
「色、こっちもあるから着てみる」
「気の済むまでどうぞ」

再びカーテンを閉めて着ていた服を脱ぎ、下着姿になる。うーん…当日までにあと3キロほど落としたいけど間に合うかな。3キロは厳しいかなー…せめて1キロでも…布一枚隔てた数センチ先に新一がいるのも忘れてほぼ裸でそんなことを考えていると突然「ちょっと!お客さんお会計…!!」というさっきの店員さんらしき声と共にざわざわと騒がしい声が店内から聞こえてくる。え、なに…もしかして万引き!?

「ちょ、新一…何かあった?」
「………」

下着姿のままカーテンを少し開けて店内を覗くも新一の奴はいやしない。きっと万引犯を追いかけていったのだろう。

とりあえずいつ戻ってくるかもわからないので色違いの服には着替えず私服に着替えて試着室を出た。

他のお客さんが小声で「万引きだって…」「やば…」「てか追いかけてったのって工藤新一じゃない?」「なんでいんの?え、デート?」と万引きからなぜか工藤新一の熱愛疑惑でカ◯ジばりにざわ…ざわ…している。#リアル安室の女事件を思い出した私は恐怖で震えた。とにかく一刻も早くここを出なければ。蘭は諸々の事情を知っているからいいにしても工藤新一ファンに拡散される恐れがある…あいつも何気にイケメンだからな…

そんな私の気も知らず新一は万引犯らしき人物を連れて戻ってきた。

「わりぃ名前、ちょっと今から警察の人来て事情説明しなきゃなんねーから待たせちまうかも」
「そ、そっか!じゃあ私お店の外で待ってる!」
「いや、はぐれたらめんどくせーからいろって。それに服、欲しいんだろ?」
「わかった!友達待つくらい余裕!私友達思いだから!」
「うっせーな…そんなデカい声出さなくても聞こえてるっつーの」

「なんだ、友達か」とざわざわしてた人達が去っていったので安心した…のも束の間。

「よぉ、探偵坊主。お手柄だったな」
「あれ、名前ちゃんも一緒?もしかしてお忍びデート?」

現れたのは松田さんと萩原さんだった。嬉しいけど今はちょっと色々タイミングが…!!浮気だ浮気ーと楽しそうにはしゃぐ萩原さんと相反して松田さんから心なしか冷たい視線を感じるのは気のせいだろうか。

「ちち違いますよぉ!新一はただの同級生で…」
「へぇ…ただの同級生とここに来るかねぇ?」
「蘭のプレゼントを買いたいって新一が言うから見立ててあげようと思っ…」
「はあ?おめーがデート行く服ぐふぉっ!!」

蘭に習う前にとりあえず一発かました。なんというか、これに関しては新一ゴメン。

「名前ちゃんモテモテじゃーん、透くんに陣平ちゃんに新一くんって…俺とはいつデートしてくれんの?」
「え、松田さんも…?」
「アホ、いいから仕事しろ」
「ごめんごめん、んな怒んなって。じゃあまた後でね、名前ちゃん」

バシンと萩原さんを殴ると2人を連れて松田さんは事情聴取に向かった。

松田さんに服何着ていくか知られたくないし気合い入れてわざわざ他の男に見立ててもらってるのも恥ずかしいから隠したいし新一にデートの相手が松田さんだともバレたくない…!

パニックに陥った私はとりあえず近くの休憩所に座って終わるのを待つことにした。

・・・

しばらく待っていると新一から「どこ?」とラインが来たので新一の元へと向かう。

「結構待っただろ、わりぃな」
「いや、いいことしたんだし謝んなくていいって」
「んじゃ、俺らはやることあるから行くわ。またね、名前ちゃん。新一くん、ちゃんと家まで送ってやれよ」
「はいはい、わかってますって」
「………」

萩原さんに笑顔で手を振り2人と別れた。松田さんはさっきと同じく冷たい視線を浴びせるだけで言葉は発さなかった。せっかく会えたんだからなんか一言でも話し掛けてくれてもいいのに。

その後無事お目当ての洋服も買え、なんとか今日の目的は達成された。

「ありがとね新一。萩原さんはああ言ってたけど別に送ったりとかしなくて大丈夫だから」
「別にそんな家遠いわけじゃねーしいいって。つーか…」
「ん?」
「松田さんだったんだな、相手。謎は全て解けた、ってな」
「な、ななな…!」
「松田さん達が来るまでわかんなかったけどさ、2人の態度見てたらわかるって。萩原さんも意味深なこと言ってたしな」

ぐぬぬ…絶対萩原さんのあの一言が余計だった。まあ、蘭も園子も知ってることだし別にいっか。こいつにバレたのはほんと恥ずかしいけど。

「あんだけ真剣に悩んで選んだんだ、松田さんもかわいいって思ってくれると思うぜ」
「…急にいい奴かよ」
「ったく素直じゃねぇなあ」
「まあでも今日は助かったし万引犯も捕まえて活躍してたからね、報酬はちゃんとあげますよ。写真送るね」
「お、おう」

だから蘭のことになるとすぐ照れんのやめい。写真を送るためにスマホを取り出すとラインの通知が来ていた。

「あ…」

松田さんからだ…!

「ん?どうかしたか?」
「ううん、何でもない」

にやけそうになる顔を手で隠して平静を装った。

「家着いたら連絡しろ」

この一言で私がどれだけ幸せな気持ちになっているか、松田さんは知りもしないんだろうな。

「どうよ、かわいいだろ」
「ああ、今日お前にこき使われたのがやっと報われたわ」
「おやおや、そんな態度していいのかね?」
「今度はなんだよ…」
「はい、これ。夢の国のペアチケット。もうすぐあんた誕生日でしょ、だからプレゼント。蘭と行ってきなよ」
「まじ…!?」
「まじ!」

急にいい奴かよ…と真似してくるのがうざくて殴ろうかと思ったけど子供のように喜んでるのがなんか可愛くて許した。

なんとなくいいことした気分になって上機嫌で松田さんに家に着いたことを報告するも、返事がなくてむかついた。既読はソッコーでついたのに、自分で言っといて既読無視かよ!てか帰ったかどうかだけ確認するとか父親かよ!と心の中で突っ込みながらふて寝した。