01.KSK商事企画部



ここはKSK(キセキ)商事。
都心にあるごく普通の会社。
そんな会社内に、社員の誰もが憧れる部署がある。


『KSK商事企画部』


どこにでもある部署名ではあるが、そこに入るには「顔採用」があるのではないかと密かに噂されるほどの美男美女揃い、且つ仕事もデキる人間のみが入れるという、社内で「一緒に合コンしたいランキングNo. 1」とも言われているKSK企画部。

そんな夢のような部署内でのお話である。


「名前ー、お昼新しくできたカフェ行かない?」
「いいよ」

桃井さつき。この部署で一緒に働く唯一の女性社員。私とは幼馴染みで、私にこの会社を紹介してくれた恩人でもある。リサーチ能力に長けているため、さつきに誘われて行ったお店にハズレはまず無い。

「なんだか楽しそうですね」
「おわ!!黒子くんっ、いつの間に…!!あ、よかったら黒子くんも一緒にどう?」
「………」
「ありがとうございます。でも今日はクライアントとの打ち合わせもありますし、また今度お願いします」
「そっか、わかった。また今度ね」

黒子テツヤ。影は薄いが、努力家で優しいさつきの彼氏。今の感じからしてまたさつきとケンカしたらしい。さつきのやつ、私に愚痴りたくてお昼誘ったな…?

黒子くんの姿が見えなくなってからさつきを横目でじっと見つめると、「じゃ、お昼にねー」と言って逃げるように自分のデスクへ戻っていった。まったく…。

「なんだ、またさつきのやつ膨れてんのか」
「大輝、お疲れさま。そうなの、お昼また話聞いてあげなきゃ」
「お前もテツも大変だな」
「まあね。でも大輝はそんなさつきにお世話されてるでしょう」
「うるせー。いつの話してんだよ」

と不機嫌そうに頭を軽く叩いてきたのはもうひとりの幼馴染み青峰大輝。基本的にだるそうですべてにおいて雑。しかし部内での業務成績はトップで、性格面でも素っ気なく見えて優しいので憧れる社員は少なくない。

「私語は慎めと何度言ったらわかるのだよ、苗字」
「あー、うるせーのが来た…」

大輝がこの部署で最も苦手とする課長の緑間真太郎。他人に厳しく自分にはもっと厳しいスーパー真面目人間。おは朝占いの信者だったり「なのだよ」が口癖なところがギャップかわいい。

真ちゃんに怒られてテンション低めに席に戻ると、椅子ごと近寄ってくる小型犬。いや実際かなりデカいけど。

「朝から大変スね〜名前っち」
「真ちゃん厳しすぎ。また怒られんの嫌だから涼太も早く席戻って」
「冷た!!せっかく元気づけようと思ってきたのに〜」
「いいからほら、ハウス」
「え〜。じゃあ…はい。これでも食べて元気出して」

と飴を手渡しにこっと微笑むこのイケメンは黄瀬涼太。とりあえずモテる。入社したのは半年ほど前だが驚く吸収力で仕事もかなりデキる。実は元彼で、入ってきた時こそ気まずかったが今では友達として仲良くやっている。

涼太から貰った飴を転がしながら資料を作成しているとドアが開き、うちの絶対的上司が登場。隣にかなりかなりデカい巨人を従えて。

「あ、むっくんー!」

む、むっくん???

「さっちん久しぶりー」
「苗字と黄瀬以外は全員知っていると思うが、長期出張で秋田に行ってもらっていた紫原敦が今日からまた一緒に働くことになった。よろしく頼むよ」
「赤ちーんお昼まだー?」
「色々説明が終わったら昼になると思うから、もう少し待てないか」
「は〜い」

なんだこいつは。うちの部長に向かって馴れ馴れしいにもほどがある!!赤司さんも普段は「頭が高いぞ」とか言うくせにこの紫原とかいうやつには甘いし。

赤司さんは、めちゃめちゃ頭が良くて、部下一人一人のことを良く見てくれてて、的確なアドバイスもくれる本当に優しい上司。唯我独尊タイプの大輝も、プライドエベレスト級の真ちゃんも、赤司さんの言うことは素直に聞いている。むしろ赤司さん以外この面子をまとめるのは無理だろう。

そして例の紫原くんは私の向かい側の席になった。なんかすごい見てくるんだけど。なんなのこの人…やだなぁ。

早くお昼になってくれと願いながら、いつもに増して必死にパソコンを打ち続けた午前中なのでした。