02.紫で巨人で生意気なやつ
念願のお昼休み。今月オープンしたばかりのお洒落なカフェにさつきと来ている。
「むっくん大きいでしょー」
ふふ、と嬉しそうに笑いながら話すさつき。まあ確かに規格外のデカさではあった。態度も。
「なんかすごい見てくるんだけど。怖いし不思議系ってちょっと苦手かも…」
「むっくんはねーああ見えてかなり子供っぽくて、とにかくお菓子が大好きだからあげると喜ばれるよ」
「へぇ。どうでもいい情報ありがと」
「私の情報が役立たないことってあんまりないけどなー。あ、それより聞いてよーテツくんがさー!!」
そこから永遠に黒子くんとのケンカ話を聞かされた。黒子くんが他の部署の女の子にも親切なのが嫌で八つ当たりしてしまったとかなんとか…。ケンカの原因は大体さつきの嫉妬かワガママで、翌日に後悔して泣きついてくることが多い。
「もっと自信持ちなよ。黒子くんも、明るくて優しいさつきを好きになったんだと思うしさ」
「でも〜…」
「いつまでも膨れてると愛想尽かされるよ。自信がないなら相手に追われるような女になる努力すればいいだけ。そう思わない?」
「…うん、そうだよね!明日お弁当作ってお昼誘ってみる!」
「それは…!やめといたほうが、いいかと…」
「え〜?なんでよ〜!」
さつきは料理が下手だから、なんて言えないけど…。これだけ黒子くんを思う気持ちがあればすぐにでも仲直りできるでしょう。なんだかんだ幸せそうなさつきが羨ましいなぁ。
さつきとわいわい話しながら会社に戻ると、赤司さんに呼ばれた。
「苗字、いきなりですまないが今の君の仕事、紫原と2人で担当してくれないか」
「え」
露骨に嫌そうな顔をしてしまったのか紫原くんの顔も引きつる。
「赤ちーん、オレ新人じゃねーし1人でできんだけどー」
むか。
「だそうですが、どうしましょう」
「2人とも、オレに意見するの?」
「「別に、そーゆーわけじゃ」」
「なら決まりだね。面識の無い君達2人の距離を縮めるためでもあるんだ。協力して頑張りなさい」
「…はーい」
あー最悪。真ちゃんにも赤司さんにも怒られるしなんて日だ!おまけにこいつとペア組むとかもう嫌すぎるよー。…でも仕方ないよね、気持ち切り替えよう。大人になれ、私。
「紫原くん、さっきはごめん。私と組むの嫌かもしれないけど、これからよろしくね」
「別に、嫌じゃないけど」
え、そうなの?拗ねたようにそっぽ向きながらそう答えた紫原くんはなんだか本当に子供みたいで少し可愛く思えた。
いちいち移動するのが面倒なので椅子を持って行き紫原くんの隣で説明しながら仕事を進める。
「名前、なんだっけ」
「私?苗字だよ」
「下の名前」
「名前。苗字名前」
「ふーん。名前ちんね」
ちん?そーいえばみんなのこともちん付けしてたなぁ。不思議っ子だけど、なんか認めてもらえたみたいで嬉しいかも。私って単純だな…。
「名前ちん」
「ん?」
資料に目をやりながら返事だけすると、
「名前ちん、なんか甘い匂いするー」
「え?」
すごい至近距離で匂いを嗅がれてびっくりする。
「あ、あー…お昼にさつきとケーキ食べたからかな。そんなに匂いする?」
「うん、いい匂い。美味しそうー」
そう言うと唇の端をペロリと舐められた。
「きゃっ!!」
思わず大きい声を出して立ち上がってしまいみんながこっちを見る。
「どうしたんスか?名前っち」
「な、なんでもないよ!気にしないで」
そう答えてトイレに逃げた。やっぱり無理だよ不思議っ子つかめない!巨人だし変態だし怖い…!
涙目になるのをどうにか堪えてトイレを出ると、大輝が立っていた。
「あいつになんかされたのか?」
「あ、ううん…。ごめんね突然」
「別にいいけど…なんかあったらすぐオレに言えよ」
そう言うと大輝は優しく抱きしめてきた。厚い胸板に逞しい腕。大輝の匂いと低く響く心強い言葉に安心する。
「ありがと…もう大丈夫」
大輝のおかげで涙も引き、また紫原くんの元へ戻る。
心なしかなんだかシュンとしているように見える紫原くん。え、なんで???もしかして、私が逃げるように消えたから…?
おとなしくなった紫原くんを横目に、午後は必要以上に優しく接したのでした。不思議系の攻略は難しい…。