ep04.黄瀬涼太(22.04/13〜22.07/10)


「みんな席ついたかー。じゃあ昨日話した通り、教育実習の先生を紹介するぞー」

教育実習生か。そういえば昨日の帰り話題になってたっけ。まあどんなのが来ようと二週間で終わる関係なんだし、オレには関係ないけど。

そう思っていた…


教壇に立ち少し緊張気味に挨拶する彼女は、オレらより少しだけ大人だけど初々しく、親しみやすそうな雰囲気だった。

ふーん…ちょっとかわいいかも…

初日の授業が終わると数名の生徒に囲まれて早くも人気者になりつつあった。

「あの教育実習の先生、早くも人気みたいだねー」
「…え?ああー…そうっスね」
「ま、私は興味ないけど。黄瀬君と話してるほうが楽しいし」
「あはは…そうっスか?」

クラスの女子に言われて目で追ってたことに気付いた。いや、ただ騒がしかったから視線がそっちにいってただけだけど。

放課後、教室を出て体育館へ向かう途中向こうから先生が歩いてきた。話し掛けようかと一瞬躊躇った隙に三年の先輩に先生は話し掛けられてしまった。別に特に話すことなかったしいっか…。

「あっ…黄瀬君!これから部活かな?頑張ってね」
「え…」

不意打ちくらって上手い言葉が出てこないオレ。いやオレこんなコミュ症キャラじゃないっしょ!とか思いながらも、先輩の視線が痛かったのもあり会釈だけするオレに先生はニコッと笑顔を見せた。

…やっぱかわいいかも。

先生の笑顔が忘れられないまま体育館へ入るとスタスタスタ…と森山先輩が近寄ってきた。

「時に黄瀬よ、噂の実習生が担当しているのはお前のクラスか?」
「そ、そうっスけど…」

さすが森山先輩。女のこととなると目の色が変わる…怖いくらいに。

「やはりそうか。よし、明日彼氏の有無を聞きにお前のクラスへ行く」
「ちょ…何言って…」

そこへ「バスケ部に恥かかせんじゃねぇ!」と現れた笠松先輩が、暴走する森山先輩に蹴りを入れてその場はおさまった。

こんなにいろんな男に狙われて、大丈夫なのかな…なんかあの人隙だらけって感じだったけど。

先生の授業はわかりやすい。黒板に書く字も綺麗だし、小柄なのに頑張って上のほうも使って書こうとしてるとことかかわいい。

たまに目が合うと、一瞬ニコッとこの間みたいに笑ってくれるとことか正直ドキッとするし…。

他の人が見てないタイミングでそういうことするとか…もしかして実はすげーやり手だったりする…?

今日は授業で使った資料や本が多くて持つのが大変そうな先生。いつもならチャンスとばかりに群がるみんなも、次が体育だからか忙しなく消えていった。

「はい、貸して」
「ん…え…黄瀬君。いいよ次体育だし、私大丈夫だから…ってわぁあ!」

ドジっ子ですか。あざと女子ですか。どっちにしろ、漫画のような展開ありがとうございます。

「大丈夫じゃないっスよね?手間かけさせないでくださいっス」
「…はい」
「…ぷっ。これじゃどっちが先生かわかんないっスね」
「あはは、そうだね」

思わず頭をポンポンすると「やめなさい」と払われた。一応先生扱いはされたいらしい。

「ん…なにこれ…」

散らばった資料やら教材を拾っていると一冊のノートが目に入った。

「あっ…返して…!」

なんか生徒のことが色々書いてある…
黄瀬涼太…バスケ部…モデルの仕事と両立して頑張っている…って浅!!

「なんスかこれ」

頭ポンポンも平気で払って授業中もあんな思わせぶりなことしてたくせに見たことないくらい顔真っ赤になってるし。

「返してってば!」
「いやっス!最後まで手伝いさせてくれたら返してあげるっスよ」
「はぁ…」

図書室に着いて一緒に使った資料を戻すオレ達。
もう次の授業は始まってるけど、足怪我してるからどうせ見学とかテキトーなこと言ってなんとか先生を納得させた。

「で?さっきのノートに生徒のこといちいちメモしてるんスか?」

お互い資料を戻しながらさっきの話の続きをする。

「私容量悪いから、話したこととかその子の好きなものとかノートに書いて忘れないようにしてるんだよね」
「へぇ…たった二週間しかいないのにすごいっスね」
「それはお互い様でしょ」
「え?」
「すぐいなくなっちゃう私と仲良くしてくれる大事な生徒だもん。ちゃんと覚えておきたい」

先生のほうに目をやると、先生もオレを真っ直ぐ見つめていてニコッと笑った。

心臓が射抜かれたように、ドクンッと大きく跳ねた。

そんなオレの気持ちを他所に先生はまた本を棚に戻す。

「ねぇ、わざとやってんの?」

ちっこいくせに高い棚に背伸びして…またドジすんの目に見えてるから。

容量良く出来ない奴の気持ちなんてわかんないしむしろ見ててイラつくって思ってたけど、なんか放って置けないんだよな。

オレと違って不器用で、でもオレと違って芯がある人。

はぁ、とため息をついて先生の後ろに立ち本を奪って元ある場所へと戻した。

「あ、ありがと…」
「こういうのはオレに任せておけばいいんスよ」

平静を装ってるけどちょっと照れてる先生、かわい。オレもそんな先生を抱きしめたい気持ちをぐっと抑えた。

「もう、何勝手に落書きしてるの」
「落書きじゃないっスよ。オレの好きな食べ物…オニオングラタンスープっと」
「あはは、書き足してくれてるんだ?」
「そうっス。先生に、もっとオレのこと知ってほしいって思ったから」
「かわいいとこあるね。嬉しいなあ」

そんなに喜んでくれるならいくらでも教えてあげますよ。

誕生日は6/18、双子座A型、趣味はカラオケで、特技は利きミネラルウォーター。


あと…好きなタイプは不器用だけど真っ直ぐな教育実習生っス。