誰かのせいにはしない


急がなきゃ

急がなきゃ

誰かに追いつかれる前に

早く

早く

一歩でも前へ

一人でも先へ





「おはよーございます」





日曜の朝は遅い

ちょっと値の張るコーヒーと

好きな店のトーストの匂い





「試合だったら大変だったね」

「試合だったらとっくに出て行ってる。」

「それもそーだわ」





ゆっくりとカップの中身を混ぜる

琥珀色の液体が渦を巻く

こうしている間にも誰かがまた先へ

自分よりも先へ





「今日はコート行かなくても良いんでしょ?」

「ああ……。」

「……あれ?ダメだった?」

「いや、……どこか出掛けるのか?」

「……ううん、じゃあ早めにお昼にして、あたし送ってくね」





無意識で追いつめていないか?

過剰に、敏感になり過ぎてはいないか?

そのことで疎かになっていることはないか?

深呼吸して、コーヒーを飲み干す。

ケータイを置いて椅子に掛け直す。

啓の背中を見る。

未来は背中からやってくる。

追い抜き去って行く者が、好敵手だけであるとは限らない。





「……今日は世田谷の家に行くんだったっけ。」

「え?……でも、いいよ?バレンタインの取りに行くだけだから」

「それは……俺の?」

「あはは、あたしみつくん以外にあのチョコケーキあげた人いないよー」





急がなきゃ

急がなきゃ

置いて行かれる前に

後ろから追いかけて来る者の中に君はいない

いつもいない

気が付いた時

立ち止まった時にふと目の前に現れる

いつもそう

焦っている自分の目の前に現れては、微笑みかける。





「……昼、何処かで食べようか。」

「けど練習……」

「マリィのケーキの方が大事。」

「ほんと好きねぇ。お父さんが一番よろこぶわ」

「啓の方が大事。」

「ん?」

「日曜くらいゆっくりしよう。せめて試合のない日くらい。」

「……どしたの急に」

「どうして俺、啓の傍にいるのが居心地良いのか解った気がした。」

「今頃!?」

「うーん今頃……。」





日曜の朝は遅い。

すっかり高くなった太陽と、

ハンドルを握る君の横顔。





「じゃーしゅっぱつしんこーう」

「おー。」

「ご飯食べて、ケーキ回収して、後はどうしよっかねぇ?」

「それはもう、啓のお気に召すまま。」

「それ一番困るんですけど……」

「地獄の果てまでお供しますよ。ということで。」





未来は背中からやってくる。

わからないものに怯えるより、たまにはどっしり構えた自分で居よう。

走り過ぎても君がいる。

抜き去って行く者が人ならば、また追い越せる自信は誰よりもある。




誰かのせいにはしない
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170212


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