春を待つ
こんばんわ。
ようこそ、
僕の愛へ。
「右側貸したげる」
「……こっちの手が余るんだが。」
「それは自分でどうにかしてよー」
ぎゅうぎゅうのポケットにつっこまれた
2人分の手
冷たいのはいつものこと。
あったかいのもいつものこと。
「―――ぎゃー!冷たい手で触るなー!!」
「世田谷に触ると日本に帰ってきたとつくづく実感するな。」
「もっと他のもんで……ていうか冷たい!つんつんすな!!やめて!!」
「なんか前より弾力が増してないか?」
「またそうやってすぐに太ったみたいなことを言う……!」
藍色の空を静かに横切っていく飛行機
あれに乗って帰って来たんだよ
あたしに逢うために
「じゃあかわむらすしに行くのやめるか?」
「それとこれとは別問題です」
「早いな。」
「かわむらすしは悪くない。かわむらすしは正義」
「あー、帰って来たなぁ……。」
ポケットの中でぎゅっと握りしめられた手
少しだけ陽が暮れるのが遅くなった冬の終わり
桃色のチョコレートの匂いに誘惑されながら
ゆっくりと色を無くしていく街並み
クルマも良いけど冷たい風に吹かれながら
並んで歩くのも悪くない
「もしあたしがドイツに行ったら」
「世田谷はそんな気さらさらないんだろう?」
「あたしはなんて思うだろうね?」
「……。」
明日は晴れるかな。
それとも雪かな。
今晩は
あったかくして寝よ―ね。
まだまだ寒いからね。
「それは行ってみないと解らないな。」
「ですよねー」
「schon Fruhling」
「……なに?」
「春が来たら楽しいだろうな。俺はね。」
「春?どゆこと……?」
誤魔化すのはいつものこと。
直球勝負なのもいつものこと。
あの飛行機に乗って
君の街を今日みたいに歩いたら
君はなんて思うんだろうね?
「こんばんわー」
「へいらっしゃい!」
ようこそ。
ポケットから手を出して、コートを脱げば
今年の春も、もうすぐそこ。
君の街にやってくる日も、遠くはないよ。
春を待つ
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170205
- 70 -
*前次#
ページ:
ALICE+