ささやかなこの願い


ありがとう

ずっとそばにいてくれて





「……これはもういいわね」





愛おしむように箱に詰めた

もうサイズの合わなくなった服や靴

それとラケット

丁寧にナイロンに包んで

段ボールにガムテープをして





「なんだか捨ててしまうのも、ねぇ……」





きっともう使わない

使えなくはないけど使うことはない

だけど思い出がありすぎて

俺以上に、母にも





「まぁ、また機会があれば処分するから」

「そう言ってしばらくは物置の肥やしになるんだろう?」

「あら、じゃあ国光は捨てられる?」

「……、いや……。」





静かに首を横に振った。

ありがとう、いつもそばにいてくれて。

勝った試合も負けた試合も

近所での練習も一人で行った遠征も

よろこびの日もかなしみの後も





「なんか……ちっちゃくない?これ」

「俺が小学生の時に使っていたラケットだからな。」

「ふーん……流石手塚、物持ち良いね〜。まだ全然きれい」

「母も俺も捨てられなくて。」

「そうなんだ……」

「世田谷がそれを使ってくれたら……。」

「……使っても手塚と試合は出来ないよ絶対。残念ながら」

「俺も世田谷と勝負しようだなんて一ミリたりとも思っていない。」

「あはははは、だよねー。良かったー」

「……してくれるなら嬉しいけど。」

「んなもん全力で拒否するね!!」

「結構やさしく手解き出来ると思うんだがな……。」

「どの口が言うかこの鬼部長めっ」




できたら俺の代わりに

彼女の傍にいてくれないか。

笑う時も、泣く時も、怒ってもいいから。

俺を責めてもいいから。

遠くへ行ってしまう俺の代わりに、新しく君に頼んだ大仕事





「わっ!!かるーい!!」

「あんまり振り回すとすっこ抜けるぞ……」

「―――はァッ!!?」

「……ほら言わんこっちゃない……危ない。」

「ヤバい、これ絶対いつか窓ガラス割るよあたし……!!」

「普通は割らないから。ラケットは飛ばすもんじゃないから。それだけでも覚えておいてくれ。」





ありがとう。

いつもそばにいてくれて。

ありがとう。

ずっと一緒にいてくれて。

俺を励ましてくれたように、君を託した意味が。

彼女にとっての勇気や支えになることを願って。




ささやかなこの願い
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170319


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