夢の通り道を僕は歩いている


読みかけの本にしおりを挟んで、表へ出た。

あまりにも、空が、青かったので。




「もうじきお昼ご飯なのに」

「…少し歩いてくるだけだから。」





母は少し気に入らなさそうに玄関先で呟いた。

11月最後の日曜日。

その割に寒さは感じない。

地球、やっぱり温暖化してるんだな。

誰も居ない道を、空を見上げながら歩いた。

…さて何処まで行こうか。

昼飯までに帰らないといけないとなると、当然世田谷の家までは無理だ。

…いや、ハナから行く気はなかったけど、もう少し早かったら行けたかなぁ、と思って。





「…あ、そうだ。」





そういえばこないだ納戸の整理をした時に、小学生の頃使っていたラケットが出てきたんだった。

たぶん母さんが何かを思って取って置いたのだろう。ガットを張り直せばまだまだ使えそうだったし、

子供用だから軽いんだよな、アレ。

だから、もし良かったら世田谷にやろうかと思っていたんだった。





「…んな初心者とテニスやったって、手塚は面白くないでしょ?」





…十中八九そう言われるだろうけど。

いやいや、やってみないことには分からないぞ、世田谷。

案外お前の方がハマったりしてな、世田谷!!

それはそれで俺は嬉しいからOKだぞ、世田谷。

家々の庭先から、赤や黄色の枝がひょこひょこ顔を出していて、住宅街の一家はちょっとした紅葉の道と化していた。

時折色づいた葉がひらひら舞っている。

結局今年は山登りには行けそうにないな。しかし来週から12月だと言うのに今頃紅葉真っ盛りか…。

やっぱり地球、温暖化してるんだな。うん。





「…ドイツも暑いんだろうか…?」





いや、日本よりも北にあるからやっぱり寒いか。

俺が行く頃は春だけど、どうだろうか?

行くのを決めたのはいいが、やはり、そこは遠い国であって。

そこで暮らして行く自分のイメージなんて、逆さまになっても出てこない。

このまま普通に冬を過ごし、春を迎えて、青学の高等部に入学、というほうが可也楽に想像できる。

ひらひらと、楓の葉が舞い落ちる。

桜の葉が舞い落ちる。

名を知らない葉が舞い落ちる。

いつの間にか立ち止まって、葉が舞い落ちる様を見ている。

その様とは全く別の、違うものを見ている。

取り戻した楽しさを、また、無駄に重い物に変えようとしている…?





「何を、」





折角世田谷がくれたのに。

俺に返してくれたのに。





「行く前から怖気づいているんだ、俺は…。」





青空に似合わない溜息が、秋の風に掻っ攫われて消えた。

今日の空は綺麗だ。

地球は温暖化している。

俺はテニスが好きだ。

事実はそれ以上でも、それ以下でもない。

そこに在って、そう認識して。

それで、総てだ。





「だって、テニスしてる会長は楽しそうよ?」

「楽しそう…?」

「うん、あと、テニスしてる会長はカッコイイ」

「…。」

「疑うも信じるも会長の勝手だけど。あたしはテニスしてる会長、好き」

「…それは…どうも…。」

「いえいえ、どーいたしまして」





だから世田谷に、昔使っていたラケットを託したい、と思ったのかも知れない。

よくよく考えてみれば結構重い物だけれど。

初心者で、テニスのことを何も知らない世田谷だからこそ、渡せるような気がする。

ドイツに行くことできっと俺は変わるだろう。

もしかしたらまたテニスを捨てたいと悩むことがあるかも知れない。

それはそれで、良いと思う。

今は、”テニスが好きな俺”を知っている世田谷がいるから。





「…っと、もしもし?」

「国光?お昼出来たから、もう帰っていらっしゃい」

「わかった。」





かさ、と足元で枯葉が囁いた。

午後は、じゃあガットでも張りに行こうかな。

昼飯の後に世田谷に電話して。

ドイツに行く前にそのラケットを持って、一緒にテニスをしに行こう。





「…テニスしてない時の俺は、どう?なんだ?…世田谷的に。」

「そんなん、……………好きに決まってますがな!!」

「痛ッ!!」





初心者でも、テニスのことを何も知らなくても、俺は構わない。

世田谷さえその気になればそんなの幾らでも、俺が教えてやる。




夢の通り道を僕は歩いている
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
091129


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