やさしいね。


ぱっさぱさのパンを、コーヒーで無理矢理流し込む。

梅雨時の暑さのせいもあってかこの頃、胃、重たい。





「……いってきます」





きょうも、

学校。

いっちょ奮い立たせるように、前へ踏み出す。





「世田谷、お前―――、」





突然呼び止められた、その人は、今日も変わらず心底マジメな顔をしている。

マジメじゃない時なんてあるのか?逆に。そう思わせるほど。





「ちゃんと食べ……てるよな。世田谷に限って食欲がないなんて有り得ないよな。」





……前言撤回しようか?マジメな顔して失礼な奴め。





「いや、―――質問を間違えた。お前ちゃんと寝てるか?」

「寝てるよ、言っとくけど食べるのとおんなじぐらいちゃんと寝てるよ」

「うん、まあ、のび太も真っ青なくらい寝てそうだが。」





やっぱり前言撤回した方がよさそう。アレか、新手のディスり方か。

あからさま苛つくあたしにお構いなく、会長はやっぱり大マジメな顔して続けた。





「この頃調子出てないじゃないか、なんとなく。」





最近さ、雨が続いて。

その割に気温は高くって。

でもエアコンかけて寝たら絶対風邪引きそうで、なんとか扇風機で凌いでて。

時間的にはそれなりに取れてるけど睡眠の質はたぶん良くない。

欠伸したり、欠伸噛み殺したり、最悪船漕いだり。

ちょっと怠かったり、はしゃげなかったり。

いつもより大人しかったり。

―――なんだよ良く見てんなあ。





「……バレた?」

「ちゃんと寝てるか?」

「ん〜、まぁ、暑くってさ」





アンタはあたしか。





「頼むから総会の時に居眠りするなよ?」

「あー、あの席生徒会役員とか先生から丸見えなんだよね!」

「お前のクラスの委員長はどーなってるんだって俺が言われるんだからな。」

「はーい、鋭意努力しまーす」





あたしの代わりに会長が怒られるのは忍びないので。あたしの寝不足なのに。

温くなった水を、一気に煽った。





「……やさしーね、会長」

「……なんだ、突然。」

「いや、……前から知ってたけどね」





空になったペットボトルと同じ。

今、心の中、軽い。





「という訳で今日は早く帰って寝ます」

「宿題もやれよ。」

「お?ドリフ?」

「誰がだ。」





君が笑ってくれるのでなおのこと軽い。

会長はやさしーね。

前から知ってたからあたし、好きなんだけどね。





「じゃーね」

「気を付けて帰れよ、世田谷。」

「はーい」

「ちゃんと寝て元気になれよ。」

「……うん」





あしたも。

学校。

汗を払うように髪をかき上げて、一歩歩き出した。




やさしいね。
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
170709


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