雲
「よし、ではこれで決まりだ。行こう、世田谷。」
そういうと会長は椅子から立ち上がった。
最近やっと文章の書き方というか、企画の通し方というか、そういうのが掴めるようになった。
鞄を抱えて出入り口に向かう会長の隣に並ぶ。
「……、」
「……?」
「……あ、いいや。なんでもない。」
何でもない、という割に、なんでもなくないような表情だった。
だからちょっと引っかかったんだ。
でも首を振ったから、あたしもそれ以上は気にしないでおこうと思った。
教科書の重荷がずっしり腕にかかる。
階段を一段下りる度、どすっという音が響く。
最初、いつもの調子で歩いていた会長の、ペースがゆっくりになった。
「……鞄、後からでも良かったんじゃないのか。」
「もうそのまま帰ろうと思ってたから。4階まで二往復キツい」
「……そうか。」
なんだかちょっとずつ。
ほんのちょっとずつ会長の様子がおかしい。
でも聞いたってどうせ何でもないって言われるだろうし、言われたらそこそこ傷付くから。
ふっとその両手が軽くなった。
「あんまり重たそうだから。」
「う!腕腕腕!!!」
「このくらい……。」
どうってことない、そう言う代わりにひょいひょい階段を駆け下りて行った。
なんか、やっぱり掴めない。
会長に呆れられないようにすることは掴めそうだけど。
会長の気持ちは全然掴めそうにない。
やさしかったり素っ気なかったり。
驚いてるのになんでもないって言ってみたり、不服そうなのになんでもないって言ってみたり。
思春期の男子ってそんなもんなのかしら……。
「何を溜息ついてるんだ?世田谷。」
「……なんでさっきびっくりしたの?」
「……。」
「教室出る時、急にびっくりした顔、なんでしたの?」
ほら、また今バレたか、みたいな顔をする。
すっと会長は視線を上に外した。
グラウンドから運動部の練習する声が聴こえてくるだけだった。
「……に……んだ……は……だ。」
「なんて!?」
「女子の隣に並んだのは久しぶりだ。」
「……どゆこと?」
「世田谷以外の女子はいつも俺の後ろにしかついてこない。」
鞄を右肩にかけ直す。
どさっとまた盛大な音がする。
「や、それは……」
みんな会長のことが好き過ぎて行けないっていうか。
いやあたしだって好きなんですけどね!?でも普通。
「行こうかって言われたら隣……」
並ばない?行かないのかな?
「……だめ?」
「いや駄目だとかそういうのではなくて。あまりに自然に隣に来たから結構驚いてしまって。」
放課後の会談は人っ子一人通らない。
教室にも誰もいないのか人の気配が全くない。
「驚いたけど、流石、……世田谷だなとも思った。」
「それって褒められてるの?」
「……褒めてる、と思う。多分。」
雲を掴むことよりも難しい。
会長の気持ちって一体どこにあるんだろう、なんて思ってた。
いや、やっぱそんなことはない。
君の気持ちはちゃんと君の内にある。
掴むことはなかなか難しくても。
「やった、会長に褒められた」
「……。」
また少し驚いたような顔をしたけれど、やっぱり聞くのはやめておいた。
君の気持ちはここにあるから。
雲
何度も夢の中で繰り返すラブ・ソング
171008
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