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見慣れた屋敷の廊下をドスドス物音を立てて歩く。私は今どうしようもないくらいむしゃくしゃしていた。



それを聞かされたのは12歳の時だった。
お前が皇家の次期当主になれ。そう告げられたのとほぼ同時だった。当主に任命されたのは素直に嬉しい。幼いころから誰よりも多く戦場に赴き、誰よりも戦うことが好きで、誰よりも強さにこだわり続けて腕を磨いてきた。この家の当主ってことは即ちこの家の誰よりも強いという証である。今まで自分がやってきたことが報われたんだとそう思ったのだ。

それなのに。───強い男と結婚しろ。子どもを産んで皇家の存続を図れ。15になっても思い当たるやつがいなければ私が見合いの相手を探してやる。それまでに結婚する覚悟を決めておけ。

は?

次期当主に選ばれた喜びに浸る間もなく、続いた言葉に疑問符を思い浮かべる。親子関係は今まで良好だったが、尊敬していた父に初めて憤りを覚えた瞬間だった。

結婚?私が?何故?

家の存続を図るというのは、まあ納得できる。しかし、だ。

私が結婚しなくても家の存続は図れるのでは?そう、それが本音だった。私が培ってきたものは結婚するためのものではない。この家の誰よりも強くあり、聡い仲間を育てて、戦死していくものを一人でも多く減らし、そして戦場で死す。それこそが私の理想の人生設計である。そこには結婚という二文字は存在しない。父もそれを理解してくれているものだと思っていた。

お父さん、私は結婚したくはありません。

いいや、お前は結婚しろ。愛し、愛される喜びを知れ。家の者を大切に思う気持ちは理解するが、それ以外に守るものがないと上には上がれんぞ。

そう言った父の強い眼差しは私の胸をひどく突き刺した。なんだか豪く図星を突かれたような気がして。お前の考えていることなど見え透いていると言わんばかりに頭の中でこだまする。

ならば、私よりも強い相手にしてください。私はもっと強くなります。そんな私の見合い相手など見つけるほうが困難に思いますが。

虚勢を張ったつもりはない。事実、私よりも強い相手など、もう身近には存在していなかった。加えて私は才に恵まれている。せめてもの反抗心だ。今以上にもっと強くなって見せる。





もう今年で16。父との対談の末、この年からお見合いをすることが決まった。これまでは本当に自分で自分を褒め称えたいくらい頑張ったと思う。でもそんなこんなでも時は来る。中学校卒業手前でもう何人かのお見合い写真を見せられた。最初こそ反発したが、今となっては父のそのあまりの必死さに押し負け、お見合いに対する反抗心も薄れ、半ば呆れ気味に写真の中から相手を選抜する。正直、見合いなど会って話はすれど、結婚しなければいい話なのだ。父も私の意見も無視して強引に話を進めたりはしないだろう。どうして今までそんな簡単なことに気づけなかったのか、結婚ということから逃れたくて仕方なかったあまりに反抗的になった自分を恥ずかしく思う。

だがしかし、今私がむしゃくしゃしている理由はそんなことではない。高校進学についてのことだった。

私は高校へ進学すること道を選ばなかった。進学してもしなくても家業のことを優先していたかったし、高校へ進学したとしても得られる勉学は既に修得していたつもりだ。お見合いで仮に結婚したならば、より一層戦場への離脱は余儀なくされる。ならばせめて、進学を選ばず、戦場へと一本化し自分の戦闘力向上に集中していたかったのだ。それが逆に再び訪れた親との衝突だった。

応接室にいた父に呼び出され、顔を出せば高校進学について説教を受けた。つーか、客の対応中に娘に説教すんなよなどと思ったが、対応中の客は父の高校時代の知り合いだという私とも顔見知りの夜蛾さんで、気心知れている人の前での説教は別に悪い気はしなかった。それもどうかとは思うが。

「見合いの話は承認したんだ。卒業後の進路についてどうのこうの言われる筋合いはないと思うんだけど?それに私は高校で修学すべき知識は身についている。これ以上の高校へ進学する理由がどこにある?」

それを聞いて父が眉間に皺を寄せる。高校進学へ進める説得の言葉を考えているのだろう。だが無意味だ。どんな理由を述べられても私は高校へ進学する意志はない。受験の時期も終わった。今更どうすることもできない───はずだった。

「ならば、呪術高専へ来い。」

突如繰り広げられた親子喧嘩を見守っていた来客中の夜蛾さんが口を開く。

「満瑠、お前はこの呪術界において必要な力だ。お前が戦いを好むのであれば呪霊と戦えばいい。強さが欲しければ強い者と研鑽すればいい。呪術高専なら、それに見合う仲間がいる。」

呪術高専─その学校は父の母校である。日本に二校しか存在しない四年制の呪術教育機関だと聞いているが、私は呪術に関する知識など持ち合わせてはいなかった。

「呪霊と戦ったことは?」

「呪霊?あぁ、気持ちの悪い化け物ならぶん殴って消滅させたことはありますよ。」

やはりな。夜蛾さんはそう言ってにっこり微笑んだ。

「満瑠には呪術師の素質がある。もしよければうちで預からせてもらおうか。」