強く優しい香り
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初めての鬼狩りも呆気なく終えたものの、次から次へとやってくる鬼の相手にはさすがの私も骨が折れる。
「人間だぁ!」「食料だぁ!」と真正面から突進してくる鬼の首をただ切り落とすだけというのも疲れた。
もしかしたらこの山には弱い鬼しかいないのではないか。初夜の終わりを告げる太陽の温もりを頬に感じて本気で思った。
夜も明け、行動出来なくなった鬼の気配が消えたころ。
私は途中で見つけた洞窟を最終選別期間中の休息地として決めた。近くには魚の泳ぐ沢もあり、数日過ごすには申し分ない環境である。
沢の麓で肩に掛けていた風呂敷を外し、少しせり出た岩場に置く。
目を覆っていた包帯を外して埃に汚れた顔と包帯を洗い、口を漱げば淀んだ気持ちも流れ落ちていった。
このまま軽く食事をして仮眠をとろう。そう思い風呂敷に手を伸ばした時、ふいに近づく気配に気づいた。
ザリ…、ザリ…。
疲労感を滲ませる重い足取り。
足音の主も沢の存在に気付いているのだろう。ゆっくりながらも確かにこちらに向かってきている。
私は替えの包帯を目に巻き、その足音を待った。
「やっぱり沢があった…ぅわあ!」
数刻もしないうちに沢を挟んだ正面の茂みから現れたのは、1人の少年だった。
よっぽど疲れていたのか綺麗な水の存在に気を取られ、私の存在に気づかなかったらしい。一拍おいて驚きの声をあげると、大きく後退った。
「…まるで鬼を見る反応だ」
「ご、ごめん!水の匂いしかしなかったから、つい…」
わたわたと手を振ったり、申し訳なさそうに頬をかいたり忙しない少年に笑みが溢れる。
名前も知らない彼からはこの山では珍しい実直な匂いがする。それと、少しの血の臭い。
「こっちに来るといい。休みに来たんだろう?」
「…いいのか?」
「勿論。沢は誰のものでもないから」
こいこいと手招きすればホッと息を付いて
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