受験会場にて

受験システム的に、私がどうあがいてもポイント稼ぎするのは無理かもしれない。ただこのブロックには、結構ライバルが少なそうなのも事実。――どうも先ほどから、逃げまどっている人の数が多すぎる。記念受験、というワードが頭をよぎった。

「きゃあああ!」
「いやっ、来ないでぇ!」
「うわっ、く、来るなぁ!」

周囲から聞こえてくる、ヒーロー科の入試とは思えない台詞。しかし私だってやる気はあるだけで、能力的には彼らと同じ。馬鹿には出来ない、余裕もない。けれど――見捨てることが出来るほど度胸はなかった。

――ポイント稼ぎはどうせ自分独りではできない、ならば助けられるだけ助けてしまえ!

「落ち着いて! その仮想敵は、あの路地には入れないから! あっちへ走って!」
「あ、ああっ――わかった!」
「痛っ! っう……」

誘導していた私の後方で、女子生徒が運悪くこけてしまった。慌てて起き上がろうとする彼女に、目ざとく仮想敵が気づいたようだ。物凄いスピードで迫るそれと、彼女が起きる速度、どちらが速いかなんて考えるまでもなく、私は彼女を庇う為に後方へ向かって再び走り出した。こんな調子では、受け身も取れそうもないあの子……仮想敵に攻撃されたら死んでしまう――!

「――退け、クソ敵!」

瞬間、とんでもない破壊音。爆発でも起きたように、仮想敵のパーツが四散して地面に転がった。呆気に取られていると、私が庇おうとした少女がぱたんと倒れる。どうやら衝撃音で気絶したらしい。

「あ――ありがとうございます!」
「おう、良いってことよ。女の子が襲われてんのに助けねえとか、男の名折れだしな! それに、ポイント稼げたんだから気にすんな!」

赤いツンツンとした髪の男の子は、明らかに硬化した右腕をぐっと握りしめて笑ってくれた。

「それよりアンタいいのかよ、さっきから記念受験くんたちを助けてばっかじゃねえか。ポイントは?」
「あー……いや、自分じゃ稼げそうもないから……。というかあんまり貴方を引き留めるのも悪いんですけど、ちょっとお礼をさせてください」
「え?」

彼の右腕に、自分の手を重ねる。そのまま個性を強化するようスイッチを切り替え。

「はい、出来た! 硬化の硬度を上げといたから、これなら3Pの仮想敵でもワンパン出来る程度には硬くなったはず!」
「えっ? マジで……って言ってる傍から3Pの敵発見――っと!」

拳一閃、後に再び破裂音。宣告通り、彼の拳は見事に3Pの敵のフォルムにめり込んでいった。

「ま――マジか……! ここまで硬化出来たの初めてなんだけど!」
「そりゃよかった! じゃあね硬化くん、ヒーロー科で会おう!」
「――おう! お前もちゃんとポイント稼げよ!」

気絶した少女を抱えて、硬化くんとは逆方向に向かって走り出す。適当な物陰に彼女を横たえ、仮想敵に見つからないようにそっと建物を出た。

出たついでに確認すると、結構な人数が、私の指示した狭い路地にきちんと逃げ込んでくれていた。良かった、これでしばらくは安心――

「――ちょっと、何アレ…………」

遥か前方、建物ごと破壊しながら現れたものがあった。
あれを人は『圧倒的脅威』と呼ぶのだろう、なんて――現実逃避したくなるレベルの馬鹿デカさだった――!