半分こできないケーキ

「で、かっちゃんはどうだったの? 上手くポイント稼げた?」
「テメェ、かっちゃんって呼ぶんじゃねえよ。デクみてえじゃねえか」
「そりゃ緑谷くんの真似だからね! で? どうなの?」
「ずっとぶっ殺しまくってたから余裕だな。ありゃ受かった」
「あはは……さすが勝己だ」
「ま、お前らみてえなナードとは違ぇんだよ」

はいはい、と軽く受け流しながら紙パックのジュースを啜った。なんだかんだ言って労働の後の一杯(りんごジュース)は美味い。勝己はとっくの昔に呑み終わったコーラのペットボトルをべこべこと片手で凹ませながら、じろりと私の方を見てきた。

「お前、もちろん落ちるんだろうな?」
「受かってると信じたいよね〜」
「適当言うなや。お前の『個性』じゃ、敵を行動不能になんかできねえだろ」
「さて、どうだろう。結果は神の味噌汁だからねぇ」
「神のみぞ知る」

アホくさ、と言う様に勝己が短い訂正文を吐き捨てる。苛立ってんのか何なのか……もう受験も終わったんだし、リラックスしてほしいところだ。

それに、これから勝己の家にお邪魔するのに、ぎゃあぎゃあ騒いでる勝己を連れ帰ったら、彼のお母さんに(勝己が)怒られる。

「しっかし、まだ残っててよかったねぇ! 雄英高校最寄りのケーキ屋さんの、超人気なプレミアムロールケーキ! 勝己のお母さんとお父さんも喜ぶよ」
「ったくよぉ……なんで受験で疲れてる息子にこんな使い走りさせんだよ、あのクソババア」
「こらこら。付き添いした私を忘れてない?」
「一人で入れるかよ、あんな女だらけの店! つーか、お前にもケーキ買ってやったんだから文句言うなや!」
「文句じゃないって〜。もー、勝己ってば甘いモノ足りてないからイライラしてるんじゃない? 勝己の家に帰ったら、ケーキ半分こしてあげよう」
「いらねぇ」

そう。さっき電気くんの看病をしていたところに勝己が現れたのは、超ファンシーなケーキ屋さんに一人で入れないからだった。

今朝、SNSでいきなり『受験終わったら校門で待ってろ、ケーキ屋に用がある。逃げたらぶっ殺すぞ』なんてメッセージが送られてきたので、思わず吹き出したくらいだ。勝己とケーキ屋さん、絶望に合わない組み合わせである。

「てか、お前ん家の親にも買っといたからよぉ。帰ったら渡しとけよ」
「かっちゃんそういう所あるよね……良い子か……」
「るせえなぁ! あのクソケーキ屋に一回入った以上、何個買おうが俺の勝手だろうがコラ!」
「ふふ……ありがとね、勝己」

ふん、とそっぽを向く勝己。耳が真っ赤なのは分かっているが、そこは長年の付き合いというやつである。勝己の名誉にかけて、スルーしておいてあげよう。

「――いやあ、にしてもさ。勝己とも、なんだかんだ結構長い付き合いになるよね。小学校、中学校と来て、もしかすると高校も一緒になるわけだ」
「最後のは認めねえけどな。長い……つっても、お前小学校は途中から転校してきただろ。ま、五年ってとこか?」
「五年は長いよ〜。勝己の家の近くに引っ越してきて、初めて挨拶しに行ったときは『うわ、もしかして今回のご近所さんやばい奴――?』とか幼心ながらに思ったもん」
「前の奴と比べんなやクソが。間違いなく俺のが格上だろ」
「ジャイアン的コミュ力が?」
「殺すぞ? 爆殺されてえのか? ん?」
「怖い怖い! ケーキ崩れちゃうから爆発は無し!」

慌ててハンズアップ。まったく――二度目のご近所さんは、焦凍とは真逆の乱暴ジャイアンくんで困っちゃうぞ。まあ、嫌いではないけれど。慣れればこのツンデレというかツンギレも可愛げがある。

それに、ちょっと暗くなり始める時間帯の帰り道を二人で歩いてくれるだけの優しさは持ち合わせてくれてるし。なんだかんだ、彼が居てくれたから、ちょっとは寂しさから解放されてた部分もあるだろうなあ。

――うん。勝己も私の、大事な友達だ。

「はぁ〜……あー、高校受かりたいなぁ。かっちゃんと同じ学校行きたいー」
「言ってろ、アホ涼花。俺は箔をつけるために、一人でヒーロー科に合格しなきゃなんねーんだよ。お前は普通科で、普通に勉強してろ」
「おっ。普通科なら一緒の学校でも良いって思ってくれてるんだ〜? 照れるなぁ」
「は!? 勘違いしてんじゃねぇー!」
「ぎゃああ! だめ! だからケーキ!」

顔ごと爆発するんじゃないかってくらい真っ赤な顔でキレ散らかした勝己から、慌ててケーキを救出。ボンボンと爆発音を立てて迫ってくる彼を見て、速やかに爆豪家に逃げ込むことを決意したのだった。