登校初日


「おわ〜!? ビリビリくんっ! 同じクラスだったんだ!」
「おいおい、だから俺は電気だっつってんだろ! そのあだ名が定着したらホントシャレにならん!」

勢いのいいツッコミが返ってくる。いやあ申し訳ない、クラスに知り合いが居たから思わずテンションが上がってしまったようだ。……いやまぁ、知り合いどころかご近所さんも居るんですけど……。さっそく眼鏡の男の子と言い争ってるよあの人。ヤダー。

と心の中でしっかりと勝己を煽って、改めて困り顔の電気くんに向き合った。

「あは、ジョークだよジョーク。覚えてるよ、上鳴電気くんでしょ?」
「あ、ちゃんと覚えてんの! 優しそうな顔して人が悪いぜ涼花ちゃんさぁ! つか、俺は涼花ちゃんのフルネーム聞いてないけど」
「ああ……勝己が急にカチコミしに来たからね……」

電気くんがちらりと横を物凄い目で見た。絶賛口論中の二人の隣で会話する私たちも私たちだが、少し声量を下げてほしいところだ。まあ、そんな奇跡が起こりうるはずもないので移動するしかないが。

「私の名字は強極っていうの。でも今更名字で呼ばれたら寂しいし、涼花でいいよ」
「お、マジ? じゃあ遠慮なく! 俺のことも、隣のヤベー奴みたいに電気って呼び捨てでいいからな!」

ヤベー奴とは、よくお分かりで。と言ったら背後から爆撃を食らいそうなのでやめておこう。代わりに電気くんと握手を交わし、さっと爆心地の近くから去ったのであった。

「って、硬化くんも居るじゃん!」
「おお!? あんた受験の時の! よかった、プレゼント・マイクの言った通り受かったんだな!」
「プレゼント・マイクの?」

それってまさか、私にポイントを分けてあげてほしいって話の――。そうか、あのVTRには電気くんが出てたけど、プレゼント・マイクは『あの女子リスナーに関するお願いは、今日でもう二回目だな!』って言っていた。つまり一回目は……彼という訳だ。

「あの……もしかして貴方もポイント分けようとしてくれたの……?」
「ああ。でもまぁ、結局一ポイントも分けられなかったけどな。あんたが自力で受かっててよかったぜ!」
「ううん、でもありがとう。嬉しかったよ、硬化くん!」
「お、おぅ。てか、俺の名前は硬化くんじゃなくて切島鋭児郎なんだけどな?」

やれやれ、と言った感じで笑った切島くん。うーん、電気くんといい切島くんといい、私のあだ名は不評らしい。残念。

「そっか。私の名前は強極涼花だよ。宜しくね、切島くん」
「おう。よろしくな、強極」

軽く挨拶を交わして、今度こそ席に戻ろう。ううん、しかし電気くんと切島くんとも一緒のクラス、加えて勝己と、そして何より焦凍と一緒のクラスか! 知り合いがいっぱいで安心だ。……全員男子なのがちょっと心もとないけど……。

「あ、緑谷くんだ……!」

入り口で何やら怯えた顔をして(たぶん勝己が居るから)いる緑谷くん。彼まで同じクラスらしい。というか7分の1が折寺中出身ってヤバくない? ここだけ聞くとめちゃくちゃエリート校みたいだ。

とりあえず緑谷くんの所には眼鏡くん……じゃないね、確か名前を……そう、飯田天哉くんだ。飯田くんがご挨拶に向かったので、私は後で声をかけよう。さて、いい加減席に……

「――おい、涼花」
「なに、焦凍? 制服似合ってるね。あとイケメン」
「お前、息をするように褒めるよな」
「嫌だった?」
「いや……褒められると普通に嬉しい。特にお前だと」

焦凍は真顔でそう言いのけた。可愛いが過ぎるぞ私の親友……褒められると嬉しい……いっぱいヨスヨスしたい……! 

と衝動に駆られてクラス初日から奇行をするわけにはいかないので、なんとか堪える。そんな私にはお構いなしに、焦凍は話を続けていた。

「同じクラスでよかった。違うクラスだと一々迎えに行くのが面倒だから」
「迎えに?」
「ああ。今日は一緒に帰らないか? それで……また前みたいに、俺と遊びに出かけ……」

「お友達ごっこしたいなら他所に行け」

不意に、よく通る冷淡そうな声が聞こえてきた。びっくりして振り返ると、なんか寝間着にくるまったおじさんがのそのそと立ち上がっている姿が現れて二度びっくりする。どうやら私たちに向けてではなく、緑谷くんと女子に言ったようだが……。

とりあえず席に座ると、薄々思っていたけど彼は私たちの担任のようだった。教壇に立つや否や、いきなり体操服に着替えろとの指示。何を……とみんながいぶかしむ中、先生は――相澤先生はこう言ったのだった。

「これから、個性把握テストを行う」