したい事があるので

人間関係って、第一印象が大事って言うよね。私と焦凍の場合は第一印象というか、第二印象? になるのかも知れないけど……とにかく、最初の声かけは大事のはずだ。どうやって声をかけようか……

「焦凍! 涼花ちゃんが遊びに来てくれたよ!」
「アッ!? あ、え〜と、しょ、ショート! 遊ぼう!」

し、しまった! 冬ねえにつられて急いで発言したらこの有様である。なんだその頭悪そうな声かけ! 小さいころと成長がなさすぎるだろ! と自分に絶望しかけたその時、再び私の身体がグイっと誰かに引き寄せられた。

「おぶっ!? ものすごいデジャブ……!」
「……」
「……えーと、ショート? 焦凍さん? 轟くん?」
「焦凍でいい」
「はーい……」

冬ねえの時の何倍もきつく抱きしめられた。あの頃とは背丈も違って、触れている体も男の子らしく硬い。声だって低くなっている。

相手は焦凍なのに、男の人と抱き合っているという感覚がしてドキドキしそうになるのを必死にこらえた。こんな至近距離で心拍数上がったの、バレたくないし。それに……そんな反応をしたら、ずっと懐かしんでいた、あの頃の関係が変わりそうで嫌だった。

なので。なるべく平静を装った声で、焦凍に語り掛ける。


「じゃあ焦凍。出来れば顔が見たいな〜って……」
「ちょっと待ってくれ。見せられる顔じゃねえ」
「ええっ!? 焦凍の顔は世界に誇れる美形でしょ! もっと自信もって!」
「なんだよそれ。ていうか、お前と最後に会ったの小学生の頃だろ……顔も中身も、変わってるかもしれねぇぞ?」
「え〜。でも、そうやってちょっと穿った感じに『こっち見て〜』って言ってくるの、全然変わってないから。大丈夫だよ」
「それ、あんまり安心できねぇ評価だな」

耳元でくすくすと焦凍が笑う声がした。背中もプルプル震えていて、よっぽどおかしかったらしい。――うん。一緒にいたら、お互い笑顔になれるところだって変わってない。

だから、何も変わらないんだと思う。きっと彼がこの抱擁から解放してくれたら、私の目の前にはカッコいいショートが現れるのだ。

「――じゃあ、顔見せるわ」
「うん」
「絶対笑うなよ」
「笑わないよ」

そう言うと、焦凍がすっと腕を解いてくれた。そのまま離れて、やっと私は彼の顔が――

「ってめっちゃ目腫れてる! えええ何で!?」
「別に何もねぇよ」
「圧倒的嘘じゃん! どしたの、泣いたの? 私が来る前になんか悲しいことでもあった!?」
「別に……」

ぶすっとした顔で顔を逸らす焦凍。笑いはしないがビックリした。理由言ってくれないかな……と私が戸惑っていると、今まで私たちのことを見ていた冬ねえが、ものすっごく良い笑顔を浮かべて焦凍の肩に手を置いた。

「ふふ。焦凍ね、昨日眠れなかったのよ。雄英の合格通知が届くのと同じ時間帯に届くよう、涼花ちゃんに手紙を送ったまでは良いんだけど……涼花ちゃんが受かるかどうか、もう我が事のように緊張してたんだから!」
「え? 焦凍が?」
「そうそう! 昨日の昼頃から緊張し始めてね〜、夜ご飯の時なんか『飯が喉を通らねぇ』って真顔で半分くらい残しちゃって!」
「マジか……焦凍、今朝はご飯食べた?」
「いや……別に緊張してねぇけど、今朝もたまたま食欲が……」
「めっちゃ緊張してたんだね……」

ちなみに自分の受験の時はもりもりごはん食べてたのよ、なんて冬ねえの一言。なんで自分の受験より私の受験に緊張してるの……まあ受かるかどうか博打みたいなところあるし、不安にさせちゃったのかもしれないが。

「いやあ〜、でもちゃんと受かったから! これでまた、焦凍と一緒に学校行けるんだよ!」
「ああ。――また一緒にしたいこと、死ぬほどある」
「私も。でもまずは、焦凍のしたいこと沢山聞かせてよ。全部一個ずつ叶えていきたいな」
「あぁ。……俺も、涼花のやりたい事、離れていた時の事、たくさん聞きてぇ。けど――とりあえず、まずは一個……やりたい事言っていいか?」

もちろん、と深く頷く。

再会して初めての、焦凍と一緒にやること。きっとなんだって楽しい。そう言うと、焦凍はかなり照れくさそうに目を伏せてこう言った。

「……そ、蕎麦食いに行きてぇ……」

一瞬、静寂。のちに、冬ねえの大爆笑。私も腹がよじれそうなほど笑ったので、笑いすぎで涙が出そうだった。それを何とか耐え、グッと親指を立てる。

「OKまずは腹ごしらえね! 昨日の夜から断食させちゃった私が悪いもん! 奢る! 蕎麦百杯くらい食べよう!」
「そんなには要らねぇ」

顔を真っ赤にして拗ねてる焦凍がますます可愛くて、思わず背伸びして焦凍の頭をくしゃくしゃに撫でてしまった。

「よしよし! じゃあ蕎麦百杯は止めて、お店の蕎麦食べたら帰ってお昼寝しよ! 睡眠も足りてないみたいだし!」
「ん……それは賛成」
「そっか! 冬ねえはどうします?」
「私はお留守番しておくわ。焦凍も涼花ちゃんも、積もる話もあるでしょ? いっぱい食べてきなさい」

じゃあ焦凍と私でお蕎麦屋さんに行こう。再会して初の外食が蕎麦屋とは、また斜め上な選択かもしれないが……実に私たちらしい。