星のかけらを集めよう

すっかりあたりは夕焼けで、野外ステージが次々と撤去されていく。次は準決勝だ。

校内ニュースの見出しを見ると、【『Trickstar』復活!? 快進撃は続く!】
【革命児が皇帝の喉元へ迫る!】なんて、完全に『Trickstar』への世論の追い風が吹いている。

「あーあ、俺たち2回戦で負けちゃったなぁ。てか、負けるだけならまだしも、椚先生のお説教&反省文コースって! ひどい!」
「アニキのせいでしょー? 生徒会長に飛びつくから」
「まぁまぁ二人とも、まずはお疲れ様。ここらでお茶でもいかが?」
「「さんせーい!」」
「ホントに元気が有り余っちゃってるねぇ」

とりあえず屋台の並んでいる場所へ向かうと、そこには『Trickstar』の姿。

「ああ!? 真緒くんっ!」

『Trickstar』の衣装に袖を通した真緒くんが居た。ああ、彼も帰ってきてくれた。やっぱり、彼らは仲間だった。
私に気づいた真緒くんは、がたっと席から立ち上がって私の方へとやってきた。

「千夜先輩! あの、俺謝りたくてっ」
「謝る?」

心底不思議そうに問えば、真緒くんも不思議そうな顔をする。……なんだか可愛い。

「私に謝る必要なんてどこにもないよ。ただ、これだけは言わせてほしい」
「な……なんですか?」

恐る恐る、といった様子の真緒くん。わざと神妙な顔をしてみたけれど、言うのは二言だけ。

「帰ってきてくれて、ありがとう」
「……! はいっ!」
「きっとスバルくんが一番うれしかったと思うけど、私も嬉しいよ。また、『Trickstar』の輝きが見れそうだね」
「はい、任せてください! 俺、頑張るんでっ!」
「おいおい、サリ〜だけ褒められるなんてズルいぞー!」
「そうだよ! 聞いてください千夜さんっ、僕ら『Knights』のひとたちに勝ったんです!」

真緒くんの背にぶつかるように、二人もやってきた。大分にぎやかになって嬉しい反面、やっぱり違和感もぬぐえない。

「北斗くんは、まだ帰ってきてないね」
「そうなんだ。でも、『fine』の演目中も姿は見せてないし……ウッキ〜みたいに監禁されてるとかかなぁ……」
「いや、それはないよ明星くん。単純に、氷鷹くんの衣装が届いてないんだって。ソースは放送委員会だから、信用していい」
「お前らって諜報部か何かなのか……?」

真緒くんの感想も最もだ。
しかし、『fine』の舞台にも居ない、監禁の線も薄いとなると、彼は今も一人で、この音楽の渦の中に居ると思うと……居た堪れない。やっぱり探しに行こう、と一人試案していると、今度は私の背後に衝撃。

「ちょっと先輩たち! いま千夜先輩は俺たちとデートしてるんですよっ?」
「横取り禁止!」
「あー……ひなた君ゆうた君、ごめん。私、今から北斗くん探しに行こうと思う……」
「「ええーっ!?」」
「今度の土日、丸々付き合うから! お願い! 北斗くんをこのままにはできないよ……!」

絶対に、このままじゃダメだ。北斗くん一人抜けていたら、それは『Trickstar』の輝きを最大限に引き出せるとはいい難い。
それに、あんな真面目な子を、一人ぼっちにしたくないんだ。

そういう気持ちを込めて二人をじっと見つめる。彼らはぷぅ、と膨らませた頬から空気を徐々に抜くと、口の端を上げた。

「千夜先輩の良い人っぷりには、勝てないですよ。ね、ゆうた君?」
「そうだね。でも、このままじゃあの真面目クン、せっかく俺たちが笑顔のレッスンしたのに、また固い笑顔に戻っちゃいそうだし……それも困るよね?」
「うんうん。という訳で、かきゅーてきすみやかに、千夜先輩に迷子を探し出してもらおっか」
「ありがとう……ほんっと、最高の後輩を持ったわ」
「ほめても何も出ませんよ?」
「ちゅーくらいしかできませんし? 何ならやってみます?」
「いや、それはまたの機会に……」

油断していると本気でやってきそうだ。ジョークにも真剣なのが葵兄弟なので。
さて、駄弁ってる時間はない。準決勝は『UNDEAD』と『fine』の対戦もあるのだ。まさか見に行かない訳にもいかない。北斗くんを見つけ出し、なんとか……なんとか戻ってこれるように、助けてあげないと。