calling!


駅前のコンビニで待ち合わせ、とのことだった。
うだるような暑さの今日この頃、私の携帯に思わぬ人物からの電話がかかってきたのだ。

――漣ジュンくん。
一年前、まさかの痴漢に遭った私を助けてくれた、いわば恩人ともいうべき人。

彼は今日から数週間、夢ノ咲学院で行う【サマーライブ】のゲストとして此方に来ているというのだけど。

「一緒に来た人を振り切って買い物に行っちゃうあたり、日和らしいというかなんというか……」

漣くんの属する『Eve』のもう一人の方を思い出して苦笑する。彼は昔からとっても我が強かったが、漣くんは彼を一人で制御するのだろうか。

暑さから逃れるように思考を回しながら駅前を歩いて、なんとかコンビニが見える位置まで来た。入り口から、ちょうど漣くんが何か買って出てきたところだった。

「漣くーん!」

手を振って少し声をあげると、彼はハッとした顔でこちらを振り返った。久しぶりに会ったけれど、相変わらず元気そうで何よりだ。

「日渡さん。すいません、ここまで呼びつけちまって。おひいさんがどっか行っちまったせいで、色々予定駄々狂いだし道もわかんねーしで、散々なんすよ……」

やれやれ、と腕を組むジュンくん。白い半そでのカッターシャツから見える腕は、健康的にしっかりと筋肉がついていた。

「ううん、平気だよ! 久しぶり、漣くん」
「うっす。日渡さんもご健勝のようで何よりっすよ。……あ、これ。良かったら飲んでください」

手に提げていたビニール袋から、漣くんが一本のスポーツドリンクを差し出してくれた。

「え、いいの? なんだか悪いなぁ」
「暑い中、ゲームしてる日渡さんをクーラー効いた部屋から追い出したんすから、お駄賃くらい当然っすよ」
「ちょっ、もしかして廃ゲーマーと思われてる?」
「別にそこまで言ってませんけどねぇ〜? ほら、だって昨日もSNSでゲームのスクショ上げてましたし」
「そう! 昨日ね、星5のね……!」
「はいはい、それは昨日もLINEで聞きましたよ〜?」

にっと笑う漣くん。こうして現実で会うのは久しいけど、そういえば昨日も一週間前もそれ以上前も、SNSでは結構頻繁に会話してたんだった。彼は礼儀正しいけれど、距離を感じさせない感じにしゃべってくれるので気が楽だ。

「とりあえず、さっそく夢ノ咲に……と言いたいところなんすけど、ちょっと一件寄り道していいっすか?」
「あ、うん。いいよ! せっかく外出たし、おいしいもの食べに行く?」
「昼食については考えてなかったっすね……後でどっか食べに行きますか。それに、オレの目当ての場所も、もしかしたらショッピングモールにあるかもしれないし……?」
「? 目当ての場所?」

何だろう。ご飯じゃないなら、日和みたいに何か買いたいものがあるとか?

きょとんと漣くんを見上げていると、彼はふとひらめいた顔をして「ああ」と手を打った。

「日渡さん、家でやるゲームじゃなくて、ゲーセンでやるゲームもできますかね?」
「アーケードゲーム? まぁ、人並みには。シューティングゲーとか、最近友達とやったよ」
「おっ、そうっすか。実は、オレたち『Eden』の曲がテーマソングになったゲームが、最近出てるんすけどね。それをプレイしろって、相手方に頼まれたんすよ」
「わぁ、すごいね! あ、そっか。漣くんゲームとかあんまりしないから……」
「そーいうことっす。日渡さん、慣れないオレをリードして、一緒にゲームしてくれますかねぇ?」
「もちろん! わーい、漣くんとゲーセンデートだ!」

しかし『Eden』の歌ったテーマソングか。一体どういうゲームなんだろう。やっぱり彼らのイメージ的に、対戦型のゲームかな? それとも2P式のガンシューティングゲーム? なんにせよ楽しみ!

「お。デートでいいんすか? 日渡さんがいうなら、デートって体でいきますよぉ?」
「え?」
「ほら、ボケっとしてないで行きますよぉ、日渡さん。ちゃっちゃとゲーム終わらせて、午後になるまでおひいさんよろしく遊びまわるんすから」

漣くんが私の手を握って歩き出す。遊びまわる、の辺りが彼らしからぬ浮ついたトーンだったので、彼もほんとは日和みたいに遊びたかったのかな? なんて可愛い印象を受け取った。

「ふふ、漣くん可愛い」
「は? オレがっすか?」
「うん! というか、後輩はみんな可愛いよ!」
「はぁ。そういうもんなんすかねぇ……?」

手を繋いでるおかげで、漣くんのきょとんとした表情も、一年前よりずいぶん近くでよく見えた。