無敵のキラキラ

10代の頃にあったあの無敵感って、成長の過程の中で、一体どこで落としてしまうんだろう。

成長していくにつれて愛想笑いやお世辞は上手くなっていったのに、いつもどこか物足りないような、あの頃の充実感だったり、キラキラした気持ちだったり、いつの間にか無くなってしまった。

あの頃は楽しかったな。放課後にマクドナルドやサイゼリヤに集まってジュース1杯で数時間話し尽くして。どれもこれも身にならないくだらない話ばかりだったと思うけど、それだけで毎日が思い出になるくらい楽しかった。

サッカー部の田中先輩がかっこいいよね、とか。野球部の佐藤くんとテニス部の鈴木さんが付き合い始めたんだよ、とか。テスト勉強全然やってないや、とか。地理の先生超怖い、とか。

そういえば初めてメイクをしたのもこの頃だった。子供ながらにお小遣いを貯めて、ドラッグストアでファンデーションやマスカラを買って。初めてまつ毛にビューラーを掛けた時、世界がいつもよりほんの少しだけ広く見えたあの感覚。マスカラを塗って今この地球で私が1番最強なんじゃないかなんて思えるような無敵感。

そんな無敵だったはずの私は、高校を卒業して、ちょっといい大学を出て、新卒で入社したIT系ベンチャー企業でインフラ系のエンジニアとして生活している。

仕事は正直忙しいけれどやり甲斐もあるし、会社自体も幸いブラックではない。資格勉強を頑張ったおかげで資格手当が増え、毎月それなりの給料を貰えているし、福利厚生面も整っている。入社3年頃にありがちな人間関係のトラブルも今のところ無いし、特に文句は無い。

そして何より、入社して間もなく付き合い始めた2歳年上の彼がいる。それなりに充実した毎日のはず。順風満帆と言っても過言ではないかもしれない。社内恋愛禁止と言われているので会社には交際のことは言っていないけれど、お互いもういい年齢だし、そろそろそんな話が出るんじゃないかな、なんて。

私はこの時まで、なんとなく生きてきた。なんとなくいい大学を出て、なんとなく良さそうなベンチャー企業に就職し、そこでなんとなく良いな、と思った彼と付き合い、なんとなく良いタイミングで結婚するんだろう。



「別れて欲しい。」



そう、この時までは、そう思っていたのだ。

なんとなく、この薄ぼやけた「しあわせ」って呼べるかもわからないような毎日が続いていくのだと。



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