風間さんに笑われながら帰宅してきた私の顔も頭も、とにかくぐちゃぐちゃだった。
恥ずかしさ、気まずさ、腹立たしさ、もどかしさ、情けなさ。
背を向けてから風間さんの方を振り返らず、ひたすら前だけ向いて帰った。
そんな私の後姿を、彼がどこまで見ていたかはわからない。
自分の入れ混じる感情を処理しきれないままシャワーを浴び、ご飯を食べ、テレビを見て過ごした。
落ち着き始めた私の中に残ったのは、私に話しかけてくる風間さんの声色だった。
翌日、睡眠をとって幾分か頭の中が整理できた私は、普段と同じように登校した。
昨日のように遭遇したらどうしようという気持ちはあったが、自分を平静に保つ意識を強く持つことで動揺は和らいだ。
風間さんにあった時、いつもどうしよう、という考えばかりになってしまうから。
風間さんの雰囲気に流されないようにすれば、もっと対等に話ができるはず。
一種の対抗心のようなものを胸に秘め、友達に手を振り駆け寄った。
そんな日に限って、風間さんには遭遇しないものだ。
いつ出会ってもいいように心の準備を固めていたのだが、休み時間、お昼休み、放課後、一度も姿を見ることなく、自宅に帰ってきた。
次の日も、その次の日も。
そうして風間さんと出会わないまま、一週間が過ぎた。
「………」
今まで毎日のように顔を見て、話をして、それが当たり前だった。
奇跡のようだと思った時もあった。いや、確かに奇跡の確率で、私と風間さんは交流していた。
学年も違い、委員会や部活などの共通点もないし、特別約束を交わしていたわけでもない。
決して心から楽しいと思える時間ではなかった。
しかし、今の私には物足りなさと願望が適わないもどかしさが渦巻いていた。
同じ場所でお昼ご飯を食べても。
以前と同じ時間に下校しても。
屋上へ行ってみても。
そこに彼の姿はなかった。
会ったら会ったでうまくやり取りできないのだけれど、会えないと無意識に彼を探してしまう。
話をしていても遭遇しない時でも、その独特のペースに巻き込まれていると感じる。
するりと手を抜け出すような、近づくと離れていくような…。
そんな心持ちで放課後の廊下を歩いていると、少し前に見知った後姿を見つけた。
それは、風間望その人だった。
心臓がドクンと大きく跳ねる。
全身に電気が走ったような、軽く鳥肌が立つような感覚がある。
しかし彼の姿は、煙に巻かれたようにすっと消えてしまった。
(……あ、れ?)
見間違いたっだのだろうか。
それとも本当に消えたのだろうか?
風間さんならそうなりかねない。
しかし待望の彼との遭遇だったのに、声をかけるとか駆け寄るとか、そうした行動ができなかった。
あんなに交流があった人と急に距離が開くと、どうしたらいいかわからなくなってしまう。
…どうしたらいいか?
…そもそも私は、どうしたいんだろう。
結局私の胸中にはしこりが残ったような、消化しきれない気持ちが残った。
掴み所のない背を見送るばかり
気が付くと後ろにいて、求めると遠くへ行ってしまう。
霧のように現れては消えていく。
私から風間さんに近づくことも、その手段も、今は見つからなかった。