「ああ………」
自分の席にたどり着いた私は、弁当箱を持ったまま机に突っ伏した。
抑えきれず大きなため息が漏れる。
そんなに親しくもない、しかも先輩に、私は何て言葉をぶつけてしまったのか。
いくら友達から聞いた評判があったとしても、許されるものではないだろう。
そもそも私はあんな言葉を使わない。
どうして馬鹿と言ってしまったのか、自分でもわからなかった。
チャイムとほぼ同時に友達が駆け込んできたから、相談することもできなかった。
(そもそも相談できないよね…)
何かあったら言ってね、と言ってくれた友人に、私が何かしてしまったなんてとてもじゃないが言えない。
午後の授業は気が抜けたように、内容が頭に入って来なかった。
そして放課後。
友達が部活へ行き、クラスメートも散り散りになる中、私は昼休みの出来事を振り返っていた。
馬鹿と言ってしまったとき、風間さんはどんな顔をしていただろうか。
頭に血が上っていたし、すぐに走り出してしまったから、表情までは見ていない。
驚いていただろうか、悲しんでいただろうか、怒っていただろうか。
無表情だったら、それはそれでちょっと腹立たしい。
そもそもどうして頭に血が上ってしまったのだろうか。
自分の作っているお弁当に対する批評が癇に障ったのか。
自覚のある欠点を指摘されて恥ずかしくなったのか。
風間さんに言われた事実が腹立たしかったのか。
色々な要因を頭に浮かべてみるけど、どれもピンと来ない。
やりきれない気持ちだけが胸に圧し掛かるように残った。
先輩に対する自分の不遜な態度がその罪悪感を生んでいることだけははっきりとしていた。
(とりあえず…帰ろう)
いつまでも教室に残って一人で悶々としていても仕方がない。
まとめていた荷物を持ち、とぼとぼと教室を後にした。
私は本当に運が悪い。
「やあ、今日は良く会うね」
こんな時にも彼と遭遇してしまうのだから。
「………!」
はっと目を見開いて風間さんの目を見る。
それをすぐ逸らし、私は思わず口を尖らせた。
「どうしたんだい?そんな顔をして」
「別に、何でもないですっ」
「何か気に食わないことでもあったのかな」
「………!」
ふん、と思わず声に出しながらそっぽを向く。
頬がまた熱を持つのがわかり、余計に悔しい気持ちになった。
「ほら、立っているのも何だし、帰ろう?」
「言われなくても帰りますっ!」
勢いよく振り向いて言い放つと再び風間さんに背を向け、学校を後にしようと歩き出す。
私の横柄な態度に怒るどころか、はっはっはと笑い声が聞こえてきて、頭の中がぐちゃぐちゃと混乱していた。
目の前の事実がうまく処理できず、風間さんへの感情的な態度だけが燻っている。
素直じゃないね、と余裕さを含んだ言葉が背後から聞こえてきて、とにかく羞恥心でいっぱいになっていた。
思春期たわわ
それが風間さんへの嫌悪感ではなく、思春期特有のあれだということを、その時の私はまだ知らない。