新堂さんが、お見舞いに来てくれた。
ただでさえ練習面で迷惑をかけてしまっているのに。
それをメールで謝罪するしか出来なかったのに。
メールでの気遣いに、はじめはやんわりと断ったのだが、新堂さんの優しさを無下にしたくなくて、結局は本心を隠さず伝えた。
心細いのもそうだけど、直接謝りたい。
少しでもいいから話がしたい。
そう思っていたから。
玄関で新堂さんを見送り、お風呂に入り、ご飯を食べて部屋に戻ってきた。
薬を飲んでベッドに入ろうとすると、ある気配に体が止まる。
気配というより、香りと言うべきか。
慣れてきてはいるけれど、自室においては浮いているような香り。
(…新堂さんの、香りがする)
そう認識すると、恥ずかしさから顔が一気に熱くなる。
数時間前、確かに新堂さんはここにいたのだ。
お見舞いという形だったから何も気にしてはいなかったが、よく考えると、異性を部屋に招いたのは初めてだった。
…だめだ。
思い返せば思い返すほど、熱が上がってしまいそうだ。
本当は明日から登校しようと思っていたのだけど、新堂さんの勧めもあって、大事を取って休むことにした。
せっかく休むと決めたのだから、今日明日で完治させなければ。
そう決心し、残り香を極力気にしないようにして眠りについた。
可能な限り体を休めたこともあり、翌日の夕方には平熱に戻り、喉の違和感もなくなっていた。
<おかげさまで熱も下がり、喉も普段通りに戻りました。明日から学校に行きます。練習も、無理はしないと約束するので、行かせていただきたいのですが…>
夕食を済ませた後、私は新堂さんにメールを送った。
練習に行っていいかを確認しなければと自分に言い聞かせていたが、単純に新堂さんとメールがしたかったのだ。
<良かった。治ったなら、練習は来てくれて構わない。内容は明日あった時に話そう>
程なくして返信があった。
内容を確認し、ほっと息を吐く。
昨日新堂さんは<謝るな>と言ってくれたから、それだけは気を付けなければ…。
宜しくお願いします、と返信し、ベッドに潜り目を閉じた。
「新堂さん!」
翌日の放課後、いつもの場所に行くと、既に彼はいた。
声をかけるとすぐに手を挙げてくれる。
「おう、元気そうだな」
「おかげさまで…色々ありがとうございました」
「気にすんな、俺がしたかっただけだ」
そう言って微笑む新堂さんの表情に、私の視線は釘付けになった。
どうしてなのか自分でもよくわからないけど、嬉しいような、安心感のような気持ちが広がっていくようだった。
結局練習は、ポイントに立って計測するだけで、走らないようにしようということになった。
数日のブランクはあったけれど、以前と変わりなくこなすことができた。
「はい、お疲れ様です」
ドリンクとタオルを手渡しながら、バインダーとにらめっこする。
私がいなかった期間のデータと見比べていると、新堂さんが横からその様子を覗いてきた。
(……!)
ふわりと、自分の部屋に残っていたものと同じ香りを感じる。
彼は今、私の真横にいる。
肩と肩が触れ合いそうな距離。
いつもこんな距離感だっただろうか?
…こんなに、近かっただろうか?
顔も、呼吸を感じられるほどに寄せられている気がする。
新堂さんは、私が手にしているバインダーの内容を真剣に見ている。
そう、ただの練習の一環だ。
それなのに。
どうして私はこんなに意識してしまうのだろう?
「…、おい、倉田?」
「……っ、はい!」
私の名前を呼んでいたらしい、何度目かの彼の呼びかけに顔を上げると、至近距離で彼と目が合った。
「どうした?ぼーっとするのか?」
「だ…大丈夫です。すみません」
一歩後退り、彼との距離をとる。
これ以上この距離感でやりとりしていたら、恥ずかしくて話どころではなくなってしまいそうだった。
そんな私を、また体調不良がぶり返したのでは、と心配してくれる新堂さんに、申し訳ないような気持ちが湧いた。
…新堂さんは、平気だったのかな。
私は先ほどから速くなった鼓動を、すぐに抑えることができなかった。