昔から、大切なものは指の間からするするとすべり落ちてしまう。大好きな両親も、生まれてくるはずだった姉弟も、大切な幼馴染の家族も。あたたかいものは全部奪われた。
それでも幸せになろうと頑張って生きてきた。痛い思いもした。寒い思いもした。ずっと辛かった。それでも、少しずつ幸せだと思えるようになったのだ。はじめて人を好きになって、その人に好きだと言われた。嬉しくて嬉しくて、本当にあたたかかった。けれど、それは束の間の記憶。すぐに、大事な人とは二度と会えなくなった。好きな人は、還って来ない。どうして、みんな私の前からいなくなってしまうのだろう。どうして、こんなに寂しい思いをまたしなくてはいけないの?



・・・



トレミーが攻撃され爆発するのを、ノエルは強襲用コンテナから眺めるしかできなかった。あそこにはまだ、仲間が乗っていたはず。仲良くしてくれた、兄と姉のような人。隣で妹のような存在のフェルトがクリスの名前を叫んだ。
声が、出ない。
戦闘になると、戦う術もそれをサポートする技術も持たないノエルはただ自室で震えるしか出来ない。逆に何か出来ないかと動き回るとそれだけ邪魔になる。それが分かっているから悔しい気持ちを抑えて息を潜めてじっとする。ずっと繰り返してきたことだ。けれど、今日は違った。

自室で待機していたら、クリスから通信が入ったのだ。

「フェルトがそっちに行くから、一緒に強襲用コンテナに急いで!」

ただそれだけ。すごく切羽詰まったような声だったし、理由を聞く余裕もなかった。ただ言われた通りに迎えに来てくれたフェルトと共にコンテナへ向かう。
その直後、トレミーが敵の攻撃を受け爆散したのだ。

…逃がして、くれた?

そんな言葉が脳裏に散らつく。そしてその上から、通信機の向こう側から、雑音混じりのクリスの小さな弱い声が聞こえた。

『ノエル。…アレルヤを、待っててあげて、ね』

ただ一言、ノエルが返事をしあぐねていた間に再びトレミーで大きな爆発が起こった。艦が大きく前方に傾いた。ノイズ混じりに聞こえていたクリスの声がぷつりと途絶える。
もう、耳元の通信機からは雑音すらしなかった。


私は、生かされた。





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