死を覚悟して、せめて太陽炉だけでもとヴァーチェからそれを切り離した直後に意識を失った。そこまでは覚えている。重い瞼が自然に開き、霞む世界を映し出す。白い世界だと思った。ここが地獄なのだろうか、案外辺鄙なところだと思わなかったわけではないが、地獄に行ったことがないのでその考えは間違いだと解釈する。喉の奥が粘着く。長い間水分を摂っていなかったせいか、口の中がからからに乾いて妙に気持ち悪い。それでも何か言おうと口を開いた。

「ティエリア」

名前を呼ばれたのはそのときだった。


「…ノエル?」
「怪我はね、大したことないの。良かった、起きてくれて」

自分を覗き込むように見ている女性は、ソレスタルビーイングのクルーであるノエルだ。頭上のライトが逆光となり、彼女の顔はうまく見えない。何故お前が、と声が擦れるのも構わず問いかける。彼女はただ、人手が足りなくて・と答えた。

「少しでもモレノさんに治療方法を教わっておいて良かった」

彼女のその言葉で、ドクターモレノは戦闘中に何らかの形で怪我をしたか、最悪戦死したことを悟る。よく見れば自分の身体のいたるところにも白い包帯が巻かれている。顔は見えないが、すぐそばにある彼女の白い手も目視できた。傷はない。彼女は怪我をしなかったのかと思うと少し安心した。ノエルが怪我をしたとなると、あいつが五月蝿い。そう思ったとき、共に戦場に出ていた仲間たちのことを思い出す。

「ノエル、」

彼女に彼らのことを聞こうとしたとき、ノエルがティエリア・と名前を呼んだ。それはティエリアが問おうとしたことを遮るという形に近かった。

「どうして、アレルヤは帰ってこないんだろう」


・・・


「お花?」
「そう、地上で見つけて。スノードロップって言うんだって。白いから、ノエルみたいだなって」

そう鉢に入った小さな花を手渡してきたアレルヤはほのかに笑っていた。困惑するように受け取ったノエルは、小さな白い花弁を覗き込む。宇宙空間で植物を育てることは可能なのだろうかと思わないでもないが、アレルヤが贈ってくれたものだから、きっと大丈夫なように品種改良されたものなのだろう。宇宙空間ではなかなか見る機会のない小さな可愛い存在に、ノエルは笑う。

「ありがとう、大切に育てるね。…でも、なんで」
「白いからノエル?」

ノエルの疑問を見透かすように聞いてきたアレルヤに、そう、と頷くと彼もまた小さく頷いた。そして「ずっとね」とはなしを続ける。

「ノエルは白いなって。髪が銀とか、肌の色とか。そういうのもあるけど、存在が柔らかくて汚れてないイメージが強いから。真っ白だなって」
「…アレルヤは私を買い被り過ぎだよ」
「ううん。本当にそう思うんだよ。だから、ね?」

受け取ってくれる?と心配そうに言う彼に、勿論・とノエルは笑った。後で知ったのだが、スノードロップの花言葉は『希望』。まさにそのときの私達にとっての願いそのもので。
花をまともに育てたことがなかったからうまく育てられるか心配だったけれど、アレルヤの助けもあってずっと綺麗な花を咲かせてくれていた。小さな花。可愛い花。白くて、本当に真っ白で。

それも、トレミーと一緒に燃えてしまった。希望をのせた花はもうどこにもない。
一緒に、希望も消えてしまった。
そう、思い知らされるだけだった。


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