アレルヤが帰って来ると信じて待つことを決めた日。あの日燃えてしまった花を買いに行った。アレルヤが選んで、贈ってくれた白い花。 アレルヤが帰って来たとき、ちゃんと咲いているように。頑張って育てよう。希望を咲かせ続けよう。そう、思った。





帰ってきたらまずは笑顔で出迎えよう。そしてあたたかいご飯を作ってあげる。貴方がいなかった四年間は、こんなのだったよ・て、伝えよう。でも、疲れているはずだから寝かせてあげないと。それでも話し足りなかったら?大丈夫、明日がある。

そう思って、アレルヤが帰って来る日のことを何度も何度も想像してどんな風に迎えようかと考えた。何年も毎日毎日それを考えていたのに、実際に本人を目の前にしてみると、そんな考えは全部吹っ飛んだ。

帰還した刹那たちと共にトレミーへと戻ってきたアレルヤは、記憶よりもずっと痩せていた。その表情からは随分疲弊していることが分かる。目の下に出来た影が痛々しい。けれど、前髪を切ったせいか、表情が以前よりもずっと分かりやすくなっていた。小さく笑みを浮かべるアレルヤは、ゆっくりと口を開く。

「ノエル」

何度、その声を願ったか。何度、この名前を呼んで欲しかったか。無重力に自身を預け、ゆっくりと彼の元へと漂いながら向かう。目を細めて笑う彼に、なんでそんなに穏やかに笑っていられるの?と何となく腹が立った。私がどれだけ待ってたことか!そう思うと自然に手が上がる。その頬を思いっきり殴ってやろうと手を振りかざした瞬間、アレルヤは驚いたように瞳を見開き反射的に目を閉じた。…だが、彼に覚悟した衝撃は起こらない。代わりに、胸に何かが当たる感触がした。

「遅いよ。こんなに遅くなるなんて、私聞いてないよ…」

ああもう。一発殴って文句を言ってやろうって思ったのに。やっぱり、私はこの人には弱い。それでも文句は忘れない。アレルヤなんて嫌い・と泣き顔を見られたくなくて彼の胸に顔を預けたまま呟けば「それは困るな」と苦笑する声が聞こえる。困るだなんて。なんて勝手な人!そう思わずにはいられないが、その勝手な人を好きになったのは自分だ。そしてその帰りをずっと待ち続けていたのも自分。

「ノエル。ごめん。辛い思いをさせた」

本当にごめん。と記憶と変わらない優しくて穏やかな声が何度も何度も謝罪の言葉を口にする。優しく髪を撫でてくれて、そのまま抱きしめられる。「髪、短くなったね」と囁かれたその声に、「アレルヤが早く帰ってこないからだよ」と答えた。

「身体大丈夫?しんどくない?」
「うん、大丈夫。僕の身体は頑丈だから」

ノエルも知ってるでしょ?という声に、知ってるよ・と返す。知ってる。全部知ってる。

顔、見せて。と頬に手を添えられた。今は泣いて酷い顔をしているから本当は見せたくないけれど、このままじゃアレルヤの顔だって見えない。そんなことを思って躊躇していたら、アレルヤの手がゆっくりと下りてくる。そのまま両方の頬を掌で包まれながら顔を上げさせられて、金と銀の瞳と目があった。彼が小さく笑みを零す。

「やっと会えた」

本当に嬉しそうにそう言うこの人の前では、もう何も隠すことは出来ない。調子に乗るかな?でも、今日くらいはいいか。そう思って、彼の首に手を回す。そのまま薄い唇にキスを贈れば、びっくりしたように目を見開いたアレルヤがこちらを見ていた。

どんなことがあっても笑って出迎えよう。それだけは守ろうとあの日決めた。
今、私はちゃんと笑えていますか?

「お帰りなさい、アレルヤ」

目が覚めて、貴方がいない朝はもう来ない。だから、朝が来るのも怖くない。もう、端末を握り締めて眠ることもない。握り締めるのは貴方の手。その体温を、直接感じて眠る。これ以上の幸せは、きっとこの世にはない。

「ただいま、ノエル」


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