"Sin"

「ーーこんな旅、始めなければ」
「ーー君と、出会わなければ」
「ーー僕が、生まれてこなければ」


同じ声が、同じ言葉が、今も聞こえる。


「…もう、やめてよ…」


ただ大切な人を守りたかっただけだった。
この世界を壊す『シン』を倒すために自らの命を捧げることを決めた愛しい人が最期の時を迎えるその時まで、見守って、彼を傷つけるあらゆるものから守りたかった、それだけだった。


結局、彼を一番傷つけたのは自分だった。


「召喚士と強い絆で結ばれたあなたを、変えましょう。究極召喚の祈り子に」
「ッユリア!」
「…ハルクの役に立てるなら、それでいいよ。一緒に死ねるならわたしも本望だし」


そのとき彼の瞳から光が消えたのを確かに見た。
ーー犠牲になるのでは、ダメだったんだ。生きて共に、戦わなければ。わたしは多分、何かを間違えてしまった。それが、彼にとっての引き金だった。


彼はもういない。
死体はすぐに腐敗して、骨は風に攫われて。


それなのに、彼の最期の言葉は今も頭に反響してわたしを責め立てていた。
究極召喚の祈り子。召喚されなければただ夢を視て、永遠にそこに「在る」だけ。肉体は魂と引き剥がされてどこかへ消えた。誰かに見つけられることもなく、永遠の時を彷徨うばかりで。

命が重かった。わたしがここで過ごす悠久の時や、愛した人の死に際や、相変わらず変わらないシンのいる世界が。何もかもがわたしの背に積み重なって、もう前に進めない。ただ平原の谷底で、空を見上げてぼんやりと時の流れに身をまかせるばかり。


そんな時が永遠にーー『シン』と共に永遠に続くんだと、そう思っていた。
けれど、何かが変わるときはいつだって本当に唐突なんだ。そう、あると思っていた究極召喚がそこにないと知ったあの日と同じで。


「…ここは」


気がつくとただ白いだけの空間に立っていた。
谷底のジメジメとした風景はどこにもなく、ただ白だけがどこまでも果てなく続いている。


一歩歩くと、再び風景が変わる。


「っ!?」


七色の光に包まれて、一瞬後に体に感じる浮遊感。
久しぶりに感じるそれにぎゅっと瞳を閉じた。


ーー星をーーーってーーー


瞳の裏に、銀色の影が映って、どこか遠くから小さな声が聞こえた。