The city of machinary

ドン、と大きな音がして、全身に軽い衝撃が走った。
ーー衝撃?音?…わたしから?


「体が…どうして…?」


200年以上前に失ったはずの肉体の感覚。まるで生きているように体に落下の衝撃と、その痛みが感じられる。どうして?混乱した頭でじっと自分の手を見つめる。


「あのー…どちら様?」


ばっと音を立てるような勢いで声のする方へ顔を上げた。
水色のワンピースを着た女の子が、少し警戒したような表情でわたしを見ていた。


「…わたしが…みえる…?」
「もちろん、見えるけど…」


女の子は、訝しげな表情で、少し離れたところからこちらをじっとみている。
少しあたりを見渡すと、スピラではあまり見かけない雰囲気の建物。わたしが座り込んでいる場所は小さな花畑だった。


不意に、ぼんやりとした、小さな、囁くような誰かの声が耳に響く。


「え、あり、す…?」
「…わたしを知っているの?」
「…あなたの名前なの?」


響く声をそのまま繰り返すと、目の前の女の子ーーエアリスが警戒を強めて、それから驚いたように瞳を見開いた。その音は今も耳に響いている。先ほどはっきり聞き取れたのとは違って、今はなにか風の音のように意味を持たない、けれど何かを訴えかけるような、そんな声。エアリスは少し落ち着いて、少し警戒を緩めて口を開いた。


「…ここは5番街スラムの教会。あなた、突然そこに現れて降ってきたの」
「…5番街…スラム…教会…?」


5番街スラムという言葉にも、教会という言葉にも聞き覚えがなかった。200年以上は谷底にいたから、どこかに新しい街ができたのだろうか?脳内では相変わらずたくさんの疑問に埋め尽くされていて、どこから尋ねればいいのかもわからない。


そもそも、よく見ればエアリスという少女はまだ幼いみたいだった。15,6歳くらい?
ーーそんな子に迷惑をかけるのはよくない。外へ出れば、誰か、助けを求められる大人もいるはずだ。そう思って、次の行動を決めた。


「…あの、突然お邪魔しちゃってごめんなさい、もう行きます」


ーーテレポ。
エアリスが何かをいう前に魔法を唱えると、再び感じる浮遊感とともに一瞬で景色が変わる。とにかくどこか、この「5番街スラムの教会」ではないところへ。地面に足がつく感覚を200年ぶりに感じて、瞳を開く。


そして、見えた景色に目を疑った。


「ーー機械の、街…?」


空には巨大な板。
当たり前のように溢れる機械と、それを手に持って歩く人々。
見渡す限り続く巨大な街。


そのどれもが、スピラではありえないものばかりで。
「5番街スラムの教会」がわからないなんて些細な問題だった。


ここは、わたしのいた世界じゃない。
そうはっきりと認識した。