Hidden beauty



荒野に立って、その白い船が地上に降り立つのを見守っていた。甲板で手を振るバレットの笑顔を見れば、海底魔晄炉での作戦がどうだったのかは尋ねずとも分かる。着陸した飛空挺に乗り込むと、甲板から降りてきた彼らとともに作戦会議室に皆が勢ぞろいしている。


「洞窟?」
「うん、近くに着陸できそうな場所はなかったから何か別の方法で行くしかないんだけど、ちょうどね、クラウドが」
「神羅の潜水艦を奪った。地図によると海底トンネルで北から侵入できる」
「なるほど……」


ユフィのことは何も話さなかった——彼女自身が何も言わないのなら、わたしから特別報告するようなことは何もなかった。ヴィンセントは相変わらず静かに壁に身を預けていて、何かを話す様子もない。だからわたしたちはただ海底魔晄炉での戦いのこと、ニブルヘイムのヒュージマテリアはジュノンのヘリポートから飛んでいってしまって間に合わなかったことを聞かされた。それはおそらくロケット村に向かっているのだという。


そしてその話が一通り終わったあとにティファが話し出したのはのはそれとは全く異なる話で。ニブルヘイムのすぐ南に山に囲まれた湖と、滝の向こうに洞窟のようなものが見えた、という彼女。飛空挺を使って低空飛行していると甲板からは様々な景色が見える。飛空挺が着陸するような開けた場所のない島や洞窟はわたしも何度か見かけたことがあった。そういった場所には神羅が回収していないマテリアだとか、過去に訪れたかもしれない誰かの宝が手付かずのまま眠っているのだという。


「すごく、綺麗だったから、行ってみたいんだ。急ぎじゃあないんだけど…」
「ヒュージマテリアはロケット村に運ばれるんだろ?まだ少しはゆとりがある。行ってみりゃあいいじゃねえか」


神羅に一泡吹かせられるマテリアでも見つかったらサイコーだけどな。と言ってシドはニヤリと笑った。少しほっとしたように笑ってティファが頷き、クラウドも頷いた。確かにあのヘリコプターは飛空挺のような速度が出るわけではないし、ケット・シーの盗聴した通りに彼らが何年も放置されていたロケットにそれを積み込むのならまだしばらく時間の猶予はあるだろう。


次の目的地が決まり、シドは飛空挺を動かすために作戦会議室を出てゆく。ジュノンの入江にあるのだという潜水艦の方を目指して飛空挺は再び離陸した。






「潜水艦、少し圧迫感があるね。これにずっと乗ってたの?」
「あ、ああ…」
「あっ、ごめんなさいクラウド、体調が…」
「いや、構わない。…話していたほうがいくらか気が紛れるからな」


ティファとクラウドの会話を、ヴィンセントとふたり少し離れた場所で聞いている。コレルエリアの水の底、大陸を縦断する海底トンネルの中で、今はティファとクラウド、そしてわたしとヴィンセントの4人だけがこの潜水艦に乗り込んでいた。そもそもこの大陸の下に海底にだけ繋がる道があるなどいざ此処に来るまで信じても居なかったけれど、こうして外の映像を見れば確かに道は向こうへと続いているのだから、どこか壮大な冒険をしているような気分になって胸が高鳴った。


「楽しい」
「潜水艦がか?」
「うん。海はスピラにいた頃からずっと身近にあったけど…海底には、全く別の世界が広がってるんだね」


故郷の海は青くきらきらと輝いていて美しい一方で、それはシンと共に全てを破壊してゆく脅威でもあった。スピラでは海がこの世界よりもずっとずっと身近にあって、だからこそその美しさにも怖さにも、この世界の人より少しだけ詳しいつもりでいたけれど、光の届かないこの暗い海の底にもまた、地上からは見えない新しい世界が広がっている。


「機械って、面白いね」
「抵抗感が薄れた、か?」
「…うん、そうかも」


飛空挺がわたしの命を救ったように、また、潜水艦がわたしに見たことのない場所を見せてくれるように。元々スピラで機械が禁じられていたのは——理由は一応あったかもしれないけれど、結局のところエボン教の教えでしかない。それが事実だったのか偽りだったのか、偽りだったとしてどこまでは真実なのか、それとも何もかも全てが偽りなのか、何もわからない。星さえ渡ったわたしが此処まできて、機械を忌避する理由はもう、どこにもなかった。


「そろそろ浮上しよう」


不意にクラウドがそう告げた。


「うん、クラウド、お疲れ様」


声をかけると、ああ、と頷いてレバーを強く引く。少しだけ体に重力がかかって、しばらくしてぽつん、と空が見える。円形の湖の中心のような其処には、人の手の入れられていない美しい自然が広がり、遠くには轟々と大きな滝が流れ落ちていた。


「…綺麗」


見たことのない景色に思わずそう呟いて、ため息を吐く。入江に潜水艦を固定してハッチを開けるクラウドの後ろについて、外へと出た。外界から切り離されたその場所はひどく静かで、星もただ穏やかに、歌うような声を響かせている。——全て終わったら此処にピクニックに来てもいい。そんな美しい場所だった。


「ちょっとだけ、休憩していかない?」


きっと同じことを思っただろうティファのその言葉に大きく頷いた。時間的にも丁度良いし、何より、少しこの辺りで休憩をしたところで、大きく予定が狂うことはないだろう。滝の向こうの洞窟も気になるけれど、ひとまず此処で休憩をしよう。それに反対するものは誰もおらず、近くにあった岩場に腰を下ろして、滝の方を眺めた。


「こんな場所がこの世界にはあったんだね…」
「わたしも、飛空挺で見かけて絶対に綺麗だって思ったんだけど…予想以上だったな…」


うっとりとそう呟くわたしたちに、クラウドとヴィンセントは何とも言えない表情で顔を見合わせている。お気に召さなかったろうかと考えたけれど、この二人が景色の美しさに感動しているところはあまり想像できないので性格の問題か、と考え直す。シドあたりときていればもっと興奮してくれたかもしれない。あるいは、ユフィとか。


「メテオが……無事におわったら、また此処に遊びにこようね」
「…ユリア、」


ティファが驚いたようにわたしを見るので、わたしは彼女に笑いかけた。
——クラウドがいるんだから、ティファだってもう、大丈夫でしょう?そう言いたかったことが、ちゃんと伝わったのかもしれない。安心したような表情で、ティファはそうだね、と笑って頷き返した。


ただ穏やかな時間が流れていた。
この先に何が待つのかを知らなかったわたしたちは、ただ世界の美しさに胸を打たれて、久方ぶりの休憩に心を和ませていた。