! 注意
・シュウハルで仮面舞踏会(not 夢小説)
・現パロ、成人設定、いろいろ捏造、二人は初対面(?)
・成人ヒカリがゲスト出演
・シュウはタキシード、ハルカはルカリオの映画のドレス
(ついでにヒカリは新無印再登場時のコンテスト用ドレスっぽいやつ)(願望)
・ワルツを踊って甘いキス(甘いかどうかは知らない)
「舞踏会なんて初めてかも!」
ハルカのその言葉に、隣にいたヒカリも笑顔でわたしも、と返して頷いた。二人の声はうきうきと弾んで期待が滲んでいる。ヒールが石畳の地面に触れるたびに、コツコツと軽い音が狭い通りに響き渡った。
旅行に行こう、と誘ってきたのはヒカリの方だった。
最近は仕事も残業続きで疲れていたのもあって、久方ぶりに友人と羽を伸ばせる旅にハルカが喜んで承諾の返事をするとすぐ、予定はとんとん拍子に決まっていった。最近まで付き合っていた彼氏と別れてしまったこともあり、ハルカにとっては失恋旅行も兼ねている。空港で待ち合わせて飛行機に乗って、現地ではガイドに連れられていくつかの観光地を巡り、煌びやかな建造物の数々を眺めながら夜はワインやビールを楽しんで。
近くの宮殿が年に数回だけ大広間を一般公開して、仮面舞踏会を開催しているのだと聞かされたのが数日前のこと。流石に踊りくらい練習した方がいいよね、と、観光の合間に簡単なワルツの踊り方を動画サイトで眺めては夜に二人で練習をして、そうして今日、開催日に至る。
「いい男見つけて絶対ゲットしてやるんだから!」
「ハルカ、別れたばかりなのに元気ね……」
ヒカリが苦笑いを浮かべる隣で、ハルカは力強く拳を握っている。ヒカリはその時、ハルカの背後に熱く燃え上がる炎を見たらしい……が、それはひとまず置いておいて。
ガイド付きのツアーでこの街を訪れたものの、今日は一日自由行動。舞踏会の準備のため、訪れる場所はあらかじめ決めていた。
「あ、ここみたい」
「わあ、素敵かも……!」
ヒカリがスマホの地図と周囲の様子を確認しながら指を指す。その先に見えた建物に、ハルカは瞳を輝かせた。石畳の狭い道の片隅にひっそりと佇む、個人経営のアクセサリ店。決して広くはないけれど、街に調和した古い建物のショーウィンドウの向こうに、たくさんのアクセサリが並んでいた。
会場で必要な物は貸し出されるらしいけれど、身につけるアクセサリの一つくらいは自分で買ってもいいよね、とガイドにオススメを聞いた結果、教えてもらったのがこの場所だった。近くにもう一つ別のお店があって、両方行ってみるといいと言われている。
「おじゃましま〜す……」
カランとドアチャイムが鳴った。奥にいた店員が笑顔で声を掛けてくる。ガイドがいないとこういう時困るわね、とヒカリが囁いた。ガイドに全てを任せるつもりで来ているから、二人とも英語さえ覚束無い。まあでも大丈夫でしょ、とハルカは笑い返す。
「困ってもスマホがあればなんとかなるわ」
「それもそうね。……あ、このネックレス可愛い!」
ヒカリはもう店内の商品に夢中になっている。ハルカもまた、つられるように並べられたアクセサリたちに視線を移した。
(確かにどれもかわいいし、値段もお手頃でいい感じかも……!)
ハルカは内心で呟いた。木のテーブルの上に並ぶネックレスや指輪はハルカにも手が届きそうなほどほどのお値段で、これならいくつか買って日本に戻ってからも使えそうだ。
のんびりと一つずつ手にとって見るハルカとは対照的に、ヒカリはいくつかのアクセサリを既に選んでいるようだった。これも素敵! とヒカリの楽しげな声が店に響いて、ハルカが半分も見終わっていないくらいの時点でヒカリはもう会計を済ませ、小さな紙袋を抱えていた。
「ヒカリ、もう買い物終わったの? 早すぎかも……」
「へへ、どれも可愛くて……ハルカはゆっくり見てて。わたし、もう一個の方のお店も見てくる!」
何かあったらLINEちょうだい、という言葉を残して、ヒカリはあっという間に店を出て行った。ちょっと待って、と声を掛けたけれど、ヒカリは振り返らなかった。
……まあ、次の店の場所は分かってるし、買い物が終わったら追いかければいいか。いや、ヒカリの買い物ペースからして、ハルカがこの店で買い物を終えるよりもヒカリが向こうの店から戻ってくる方が先かもしれない。そう考えを巡らせながら、ハルカはテーブルへと視線を戻す。
(あ、これ、ちょっと可愛いかも……!)
シルバーのシンプルなブレスレットを手に取って腕につけて口元を緩める。ヒカリほどハイペースでなくても、ハルカもアクセサリは嫌いじゃない。むしろ人よりもオシャレには敏感だし、こういうものは好きな方だ。一度並べられた商品に視線を落とせばどれを買うべきかに気を取られて、気づけば買い物に没頭していた。
その時まではただの旅行だった、と思う。それがあんな風になるなんて、まだ夢にも思わずに、ハルカはひとつひとつの商品をゆっくりと眺めて瞳を輝かせていた。
「……あ……」
店内をくまなく見回って最後の棚にたどり着いたとき、ハルカはふと小さく呟いた。片隅に飾られていたネックレスに目を奪われる。吸い寄せられるように腕を伸ばして、そのネックレスを手に取った。
赤い薔薇のあしらわれたペンダントトップ。そこから赤い石が垂れ下がっている。特別派手なわけでもなければ、特別高級なわけでもない。それでもなぜだか、そのアクセサリから目を離せなかった。
「これ、グレ……」
グレ、なんだろう。頭に鈍い痛みが走る。何かを考えた気がするのに、何を考えていたのか——
「グレイシアに似合いそう、かい?」
「——え、……?」
背後から唐突に、流暢な日本語で声が掛けられて振り返った。知らない、男の人。少し高めのテナーボイス。ついさっきまで店にはわたししかいなかったはずなのに、いつの間に? そう考えながら、知らない声のはずなのに、どこか心地いいと、何故だかそう思った。
「……誰?」
「通りすがりの日本人さ。ネックレスを選んでいたんだろう。君にもよく似合っているよ。僕にプレゼントさせてくれないかな?」
この人は一体なにを言ってるんだろう。遠い外国で、同じ日本人だからって知らない人にそんなこと。そう思っているはずなのに、何故だかハルカは断ることができなかった。片手を差し出すその男に、そっと手に持っていたネックレスを渡す。魔法に掛けられたみたいだった。
「〜〜〜……」
「……〜〜〜〜」
店員さんと、その男が異国の言葉で話す声が遠くに聞こえる。ぼうっとその後ろ姿を見つめていると胸が苦しくなって、ハルカは胸ををおさえた。
わたし、どうしちゃったんだろう。何が起きているのか、どうすればいいのか、この人は一体誰なのか。混乱する頭では何も考えられずに、ハルカはただただそこに立ちつくしていた。
「レディ、どうぞ」
「あ……ありがとう……」
「舞踏会にはそのネックレスを着けておいで」
「え、どうして……」
「じゃあ、また」
カラン、とドアチャイムが響いて、男は店を出て行った。
声を掛けられてから5分も経っていないだろう。あっという間のことだった。
「……今の、」
店員さんが不思議そうにこちらを見ている。ハルカは慌てて、とりあえずサンキューとだけ言って店を出た。最後の棚はあのネックレス以外何も見ていないし、他にほしいものもあったはずだったけれど、これ以上店に留まろうとは思えなかった。
——とりあえず、ヒカリのところに行かなくちゃ。そう思ってスマホを開くと、もう15分も前にヒカリからメッセージが届いていた。ヒカリの方はとっくに買い物を終えて近くのカフェで待っているらしい。店のURLが添付されていたので開いて場所を確認して、今から行くとだけ返してひとまず歩き出す。
頭の中はさっきの男のことでいっぱいだった。日本でも知らない男の人に声をかけられることくらいは珍しくないけれど、それとは何かが違う……何が違うのかはうまく言葉にできないけれど、そう、あえて言うのなら——
(あの人のこと、知ってる……)
知っている、気がした。それに、彼の発した言葉、『グレイシア』——聞き覚えもないし、知らない言葉。そのはずなのに。
——グレイシアに似合いそう。
ハルカもその時、たしかにそう思ったのだ。
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