そっと見守って


「それにしてもシンジ、なんで今日はサトシとバトルしなかったんだろう?」

 特に何かあったわけじゃないけど、同じペースであるくサトシ・ナマエとヒカリ・タケシの間は少し離れている。だから二人にはヒカリの声は届かない。それを好機としてヒカリはふと、疑問に思ったことを呟いた。
 シンジの話をサトシにするのは気が引けたし、今はナマエの前でその名前を出すのも少し気まずいような、そんな気分だった。

「ナマエに気を遣ったんじゃないか?」
「へ? ナマエ?」

 今まさに思い浮かべていた名前に、ヒカリは少しどきりとしながら首を傾げる。ああ、と頷いたタケシは少し楽しそうに見えた。

「バトルになればナマエも観戦することになる。怪我をしたナマエに無理をさせたくなかったんだろう」

 それは、これまでヒカリが抱いていたシンジのイメージからはあまり想像のできない言葉だった。ヒカリは驚いて瞳をパチパチと瞬かせる。

「でもどうしてシンジがそんなこと、」
「ヒカリは気付かなかったのか? シンジ、ナマエにだけは優しいんだ」

 タケシはにこやかに笑っている。ヒカリはその言葉に、先程盗み見た光景を思い出した。
 シンジは使えないな、とか言っていて、相変わらず口が悪いなって思ったけど。もしかしてあれは、シンジなりの心配の言葉だった? 実際、ナマエがもう歩ける、と返した時にはそれ以上は何も言わなかった。

「もしかしてあの二人、」
「ああ、」

 ……うそ。
 ちらりと前を歩くナマエの様子を伺ってみる。いつもどおりのナマエの姿だ。でもヒカリはシンジの話になると頬を真っ赤にして焦るナマエのことを知っている。そしてどうやら、

(……タケシもナマエのこと、察してるみたい)

 それに加えて、シンジのことも。

「あたし、全然知らなかった……」
「サトシとシンジはああだし、ナマエも表立っては言えないんだろう。ふたりとも、結構分かりやすいんだがな……」

 タケシ、意外とすごいかも。ヒカリの心の中でタケシの評価が上がる。ちょうどそこで目当てのカフェに着いたらしいナマエがヒカリの名前を呼んで手を振った。

「今行くー!」

 はやくはやく、と言うナマエにヒカリは走り寄った。サトシはもう中に入っているらしい。

「タケシと何話してたの?」
「え? ……うーん、ナイショ!」

 なにそれ、とナマエは笑った。
 うん、かわいい。ヒカリは思う。これだけかわいいんだから、あのシンジだって好きになっちゃっても仕方ない。
 恋愛とかはあたしにはよくわかんないけど、ナマエが笑顔ならあたしも嬉しい。頑張れ、と心の中で呟いて、ショーケースの中のケーキへと視線を移した。

「ヒカリどれにする?」
「どうしよ、迷っちゃう! これも美味しそうだし、あ、これも!」
「それあたしもほしいと思ってたの。よかったら半分こしない?」
「いいね、賛成!」

 ……でもやっぱりシンジには渡したくないな、なんて、そんな小さな嫉妬心を隠しながら、ヒカリはナマエに笑いかけた。