そっと見守って


 旅の途中、ある街に立ち寄った時のこと。
 ヨスガシティとかトバリシティと比べればそう大きな街ではないものの十分栄えていて、街中の便利のいい場所にポケモンセンターがあり、街は多くのトレーナーで賑わっていた。旅の中継地としてはこれ以上ないくらいの場所で、これ幸いにと同行者のタケシは荷物持ちにサトシを連れ立って買い出しに出て行ったし、ヒカリも同様に街へと繰り出すことにした。タケシやサトシと別行動をとったのは、コンテスト用のボールデコのシールやアクセサリなどを手に入れようと思ったからだった。

「あ! これ、あたしがほしいと思ってたブラシ!」

 雑貨屋の棚、人気商品と書かれたポップ広告に気がついて立ち止まった。普段なら誰かが何? と聞いてくれるところだけれど、今日はあいにく一人。それでも後ろをついて回るポッチャマが首を傾げて鳴いたので、ヒカリは自信満々に口を開く。

「これ、使うとすっごくツヤツヤになるんだって。雑誌にも載ってる人気商品なんだから!」

 どこからともなく取り出した雑誌の1ページには、美しい毛並みのレントラーが女性トレーナーにブラッシングされている写真が写っている。ポケモン用であることを理解したらしいポッチャマは、それになるほどと頷いた。
 ヒカリはブラシを手にとって、買い物かごの中へと置いた。カゴの中にはほかにもいくつかの雑貨が並んでいる。ヒカリはそれを見下ろして満足げに頷いた。

「ポッチャマ、そろそろ行こ? ナマエも待ってるだろうし」

 ナマエ、というのは今はポケモンセンターで実家の両親に連絡を取っているはずの旅仲間のことだった。
 互いの用事が終わったらいっしょにケーキを食べようと約束している。ポケモンセンターの入り口で待ち合わせをしているから、あまり長々と買い物しているとナマエを待たせてしまう。ヒカリはポッチャマを腕に抱きかかえて、カゴを持ってレジに並んだ。

 レジはそう混んではおらず、数分後店の入り口にはビニール袋を片手に、もう片手にはポッチャマを抱えたヒカリの姿があった。ポケモンセンターはここからはあまり離れてないし、時間もまだそんなに経ってはいないけど、ナマエの用事はもう終わったかな。ヒカリはナマエのことを思い浮かべながら道を急ぐ。
 たぶんここまではいつも通りの旅の風景だったと思う。まさかあんなことになるなんて、とヒカリはその後振り返ることになるのだけれど。