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five hundred twenty thousand six hundred minutes
how do you measure, measure a year?


華やかなシャンデリアが白い床やテーブルクロスを照らし、華やかなドレスに身を纏った友人たちが皿にリゾットやステーキをのせて立っている。主役であるはずのわたしたちはこの雰囲気に慣れずに困ったように笑い合った。


「なんだか不思議な気分ね」
「ああ、そうだな」


そうして話していると前から金髪の女性が歩いてくる。アカデミア時代の友人であった、明日香だった。メイド・オブ・オーナーを務めた彼女とは結婚式前にも何度か会う機会があったが、互いに忙しくゆっくりと話す時間がなかったのだ。ーー今もゆっくりと話すような空気ではないけれども。


In daylights, in sunsets
In midnights, in cups of coffee
In inches, in miles
In laughter, in strife


「改めて、結婚おめでとう、ヨハンも」
「ああ!ありがとな」
「ありがとう、明日香ももうすぐ?」
「いいえ、亮は忙しいから、シーズンが落ち着いてからになるわ」
「そっか、じゃああと数ヶ月くらい?」
「そのつもりよ」


卒業のときよりも大人っぽくなっているけれど、その笑顔はあの時と変わらない。それがわたしを安心させた。見れば、そこでお酒を片手に偉そうにしている万丈目だって、それを冷たい目でみている翔だって、大人にはなっているけれど、何も変わっていない。小さな同窓会のようになった披露宴会場を見渡していると、隣で同じようなことを考えているらしいヨハンが笑っていた。


「でも意外だったわ、あなたが結婚するなんて。それも、ヨハンと」
「そうかしら?わたしたちずっと仲はよかったでしょう」
「…そう、ね」


突然に顔を俯けた明日香に首を傾げた。私たちは結婚を決めたのこそ最近だけれど、いつだって人の前では、互いを理想の相手のように接してきたからだ。誰しもがわたしたちを理想的なカップルだと称え、わたしたちもそれに自信を持っていた。


How about love?
Measure in love
Seasons of love


「わたし、知っているのよ」


こんなところで話すことじゃあないのはわかっているけれど。
そう続ける明日香にわたしはヨハンと顔を見合わせる。


「あなたが3年のときに、夜中に抜け出してはレッド寮へ行っていたこと」
「それは…」
「十代のところに、泊まっていたでしょう」


ーーヨハン以外にも知っているひとがいたのか。
それがわたしが最初に思ったことだった。ヨハンが小さく笑っていた。エメラルドの瞳はどこまでも澄み渡っていて、優しい光を反射して輝いた。


「…そうね、そんなことも、あったわ」
「だからわたし、あなたは十代を待っているんだと思っていたの。だから、わたし…」


十代のことを明日香が思っていたことは誰だって見ればわかることだった。ヨハンのそれと違って純粋で、素直な恋心だったから。その瞳が少し妬ましげにわたしをみることがあるのだって知っていた。わたしが、彼女に見えなくて十代に見えるものを共有していたから。


「明日香、あなたはわたしのことを少し、勘違いしているみたい」
「勘違いって…」
「わたしが好きなのは十代じゃないし、十代のことを好きなのはわたしじゃあないのよ」


ヨハンと瞳を合わせると、ヨハンは一歩わたしのところへ近づいて、腰を抱いた。


Five hundred twenty-five thousand six hundred minutes
How do you measure the life of a woman or a man?


「わたしはね、ユベルが好きだったのよ」


ーー今だって愛してるわ。
そう囁くように言えば、ヨハンがわたしを抱く腕が強くなった。明日香は驚いたようにわたしとヨハンを交互に見た。


「そんな、ユベルなんて…」
「みんなそう言うでしょうね、わたしだって一回殺されているし…」
「っヨハン、貴方は何とも思わないの?」
「俺は知ってるからさ、それに」
「…ヨハン、」
「大丈夫、なまえ。…それに、俺も同じだから」


ーーそれは、いえ、あなたは。頭の回転の速い明日香はそれだけで全てを察したようだった。戸惑ったようにわたしたち2人を見つめている。わたしたちは互いに、一番に思う人ではない。それを悟ったからだ。


「勘違いしないで明日香、わたしはヨハンを愛しているのよ」
「でも、」
「ヨハンだってわたしを愛してくれているわ、そうでしょう」
「ああ!勿論だぜ!」


In truths that she learned
Or in times that he cried
In bridges he burned
Or the way that she died


キスを交わすと口紅が少しだけヨハンの白い肌に移った。くすりと少しだけ笑って、テーブルにあった紙ナプキンでそれを拭き取る。それを明日香は黙ってみていた。


「わたしたちはね、互いに愛することの苦しさ、痛み、寂しさ、そして喜び、幸福を、共有しているの。それを一番に大切にする者同士、心の一番奥にある大切なものを共有できる者同士だから、互いを深く尊敬している。そうやって愛を語らいながら人生を共に過ごせるのも、悪くないかなって、そう思っているのよ」


それはわたしの本音だったし、ヨハンの本音でもあった。わたしは彼で、彼はわたし。あのときからずっと変わらない、わたしたちの真理。信仰。


「あまりに驚いてしまって、なんて言ったらいいのか分からないのだけど、」
「そうよね、ごめんなさい」
「いいの、ただ、それも一つの結婚の、幸せの、形なのよね。わたしには、分からないけれど」


明日香は優しいからわたしたちを否定しないことくらいは分かっていたけれど、改めてそう言われるとすこし嬉しい気持ちになる。彼女はわたしたちを理解せずとも、受け入れてくれるから。


It’s time now to sing out
Tho’ the story never ends
Let’s celebrate remember a year in the life of friends


「幸せにね、2人とも」


そう笑う明日香の本質はやっぱり、なにも変わっていない。昔の友達に会うというのも、悪くないものだ。


Seasons of Love
-Share love, give love, spread love
-Measure, measure your life in love


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