3-1



今日の相談所は霊幻と芹沢、なまえの3人が働いている。


「モブは文化祭の準備だってさ」
「この前の妖怪退治の時に言ってましたね」
「妖怪退治?そんなことされたんですか?」
「ああ、あれは大変だったぞ。#name2ちゃんも来ればよかったのに」
「…ああ、なるほど。面白そうですね」
「は、お前いま、」
「すみません、つい…」
「ついで人の記憶覗いてんじゃねーよお前、プライバシーって知ってるか?」
「ぷらいばしー…?」


客が入ってくる気配さえ全く感じられないいつも通りの相談所で、和やかな会話を繰り広げる霊幻となまえ、そして机に向かいながら時折会話に参加する芹沢。不意に会話が止むとなまえはソファから立ち上がり、芹沢の方へと歩いて行った。


「それ、宿題ですか?」
「ええっ、あっ、そうです…数学が難しくて…」
「なるほど。あ、そこ、符号が逆ですよ、移項してるところ」
「あっ本当だ…ありがとうございます」
「そのあと止まってるのって接戦の方程式がわからないとかですか?」
「えっ、そ、そうですね…」


徐に隣に腰掛けると、芹沢が反射的に瞳を彷徨わせる。なまえはそれに気づくことなく練習問題のページが開かれた教科書をぺらぺらとめくってゆく。やがて目的のページを見つけたなまえがその部分の解説を始めると、芹沢は時折瞳を泳がせながらも必死に頷いていた。


「どうですか?できそう?」
「あ、はい…この問題は解けそうです。ありがとうございます…」
「オイなまえちゃん、お前数学できんの?」
「うーん、まあ一応大学は出てますからね、中高の数学なら一通りは」
「芹沢、数学が難しいって言ってたよな」
「エッ、そ、そうですね。いやでも、」
「なまえちゃん、休日にでも芹沢の宿題手伝ってやったらどうだ?」
「確かに、休日っていつも何して過ごしたらいいのかわからなくて暇なんですよね。構いませんよ、ここでいいですか?」
「えっ、ええっ…」


芹沢は突然の勉強会と速いペースで進む会話について行けずに目を回す。


「お、俺…授業料とか払えないですけど…」
「やだな、お友達に勉強教えるくらいで授業料とったりしませんよ。きになるならお昼ご飯でも奢ってください。あと敬語やめてください、芹沢さんの方が年上なんですから」
「えっいや、う、うん…」
「芹沢お前…そろそろ2週間経つんだしいい加減なまえちゃんと話すのも慣れろよ…」


まあ慣れる慣れないじゃあないのかもしれないが。続きは霊幻の胸の中へと仕舞われた。芹沢はなまえと目を合わせられずに困ったように頬を掻く。じゃあ、お願いするよ。そう小さく呟くと、なまえがニコリと笑った気配が感じられた。


「まあでも次の土日はモブの文化祭だし、勉強会するにしたってその次からだろうな。お前らも行くだろ?」
「中学校の文化祭ですか、楽しそうですね。俺引きこもってたんで一回も行ったことないんですよ」
「モブはお化け屋敷らしいぞ」
「へー、楽しそう!わたしは高校以来ですね、楽しみだな〜」


そうして今日も日が傾いて店じまいである。今日はマッサージに来た客が3組5人。除霊の仕事はなく、時はゆっくりと流れていた。




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