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帰りに呼んだタクシーの中は行きほどに息の詰まる空気は流れていない。行きとは異なる運転手は、ほんの1時間前にここへ来た時と比べて人が一人減っているのだとか、そんなことには気づくはずもない。


「なまえちゃんさ〜、気持ちはわかるよ?俺も今回の件をどうこうするつもりはないけど、往復高速道路で1時間もタクシー乗ったらタクシー代のほうが相談料より上だからね?」
「す、すみません…彼女本当に困ってたからつい…」
「霊からも相談料もらえたら言うことないんだけどね〜」
「…師匠、でも」


これでよかったと思います。
モブがしっかりとした口調でそう言うので霊幻は黙ってそちらを向いた。モブはまっすぐになまえを見つめている。


「こうやって声のない悪霊にも、ちゃんと聞いてくれる人がいれば、届けられる言葉を持ってるんだって、僕は知れてよかったです。ありがとうございます」


まあお金のことは師匠に任せきりなので、僕にはなにもできないんですが…。
そう言うモブに、なまえは少しだけ嬉しそうに顔をほころばせた。白い頬が薄く桃色に染まる。


「久しぶりにこの能力に感謝されたの、嬉しい。ありがとう。でも霊幻さん、今度からは気をつけます…ごめんなさい…」
「あー、いいよ。今回は俺も面白いものを見れた。モブもこう言ってるし芹沢も…芹沢?」


ふと霊幻が顔を右に向けると、芹沢はぼんやりとしていた表情をハッと引き締めて、なんですか?と問いかける。


「芹沢さん体調でも悪いんですか?」
「えっ?い、いや、そういうわけでは…」


なまえの言葉に焦ったようにそう返し、視線をあたふたと彷徨わせる。霊幻はその仕草に何かを感じてニヤリと笑った。


「ほう、社会復帰してまだ1ヶ月も経ってないってのに…」
「えっなんのことですか?」


芹沢が心底不思議そうにそう問いかけるのに、霊幻はただ性格の悪そうな笑みだけを返す。なまえとモブは芹沢に同調するように首を傾げて、エクボだけは霊幻を呆れたように見つめてため息をついていた。気づけば空は赤く染まり、西日が車に差し込んでいる。その赤は窓際に座る芹沢の表情を優しく色付けた。車はもうじき事務所へ着くだろう。




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