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そして季節はあっという間に巡り、春。


なまえの高校生活も3年目、最後の1年をむかえていた。

そんな中。



「ねえねえなまえちゃん聞いた?
今年度から新しくヒーロー科の先生にあのオールマイトがなるって噂!」


「なんかヒーロー科の1年の授業にいたんだって〜!」


新学期早々、クラスではこの話で持ち切りだ。



当たり前だが、なまえのいる経営科とヒーロー科は普段全く別のカリキュラム構成なので顔を合わせる機会はあまりない。

それにも関わらずこの盛り上がり。
それだけ、オールマイトがこの雄英高校で教師をするということは
この学校の生徒にとって大きな出来事だった。



「私、オールマイトって、実際に見たことないかも。」
まあ、ほぼ毎日かというくらい弔が彼のことを話しているけれど。

「今度みんなで見に行かない?!」

「行こいこ!」



そんなクラスメイトを横目に



「じゃあ私帰るね。」

なまえは自分のスクールバッグを手に席を立つ。
「えー!なまえちゃんもう帰るの?」

「なまえちゃん今日バイト?」

「うん。

また明日ね。」


適当な予定をクラスメイトに伝え、
なまえは教室を後にした。




そして、昇降口とは反対の方へと足を進める。


向かうのは講師たちが比較的多くいる会議室や教科部屋などがある棟。






(……あ、いた)

廊下の向こう側にいるのは
自分の学科でも講師をする男。

面識がある教師なら誰でも良かったのだが尚更好都合だった。



なぜならなまえは他者、特に男が自分に向ける色々な意味での無意識な好意的な視線や態度について充分理解していたし

この男は露骨に自分に対して『そう』であることを知っていたからだ。



「おぉ、みょうじ!今帰りか?」

「はい。今ちょうど今日の授業で提出出来なかった課題プリントを提出していたところなんです。」

「お、みょうじは真面目で偉いな。さすが首席だ。」

「あはは、そんな風に褒めてくれるの、先生くらいです。」



そしてなまえは相手の目をじっと見つめ、
自分が話しかけた本題に切り込む




「ねぇ先生、




あのナンバーワンヒーローのオールマイトがうちの学校で講師をしてるってほんと?」


お気に入りの生徒の端正な顔に見つめられ、すっかり気を良くしたその男はいとも簡単になまえが知りたかったことを話し出した。


「ああ、そうなんだよ、びっくりだよな。この4月に着任して、主に1年のヒーロー基礎学を担当してる。」


「ヒーロー基礎学…?
じゃあ今のヒーロー科の1年は、オールマイトに実戦演習してもらえるんですね。」

「そのせいかヒーロー科の教師陣めちゃくちゃ気合い入っててさ、もうこの時期から今年の1年は郊外演習なんかするらしい。」

「郊外授業かぁ…わたし達のカリキュラムだとそういう授業あんまり多くないから羨ましいかも。



あ、先生ごめんなさい。忙しいのに長いこと引き止めてしまって。」

「いやいや、全然構わないよ。
あ、みょうじ、この話他の生徒には一応秘密だぞ。」

「ふふ、それじゃこれは先生と私だけの秘密ですね。」


ありがとうございます、たくさん大切なこと教えてくれて。
もちろん、他のクラスメイトには言わないよ?

でも、



弔、この話聞いたらどんな顔をするかな。
なまえは今度こそ、彼が待つアジトへと足を急いだ。






(その頃)



「なまえが帰ってこない!!!今日は学校が終わったらすぐ帰るって言ってたのに!」

「死柄木弔、彼女は幼い子供ではないのですから、少し帰りが遅いからと言ってそんなに心配しなくても。」

「だってスマホに連絡しても返ってこないなんておかしいだろ、誘拐とかされてたらどうするんだよ!!」

「……」


いちいち相手にするのに疲れてしまった黒霧だった。