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「弔、あのね。お願いがあるんだけど」
「何?」
「敵連合の人たちもうすぐヒーロー科の子達のいる森林学校に行くでしょ?」
「駄目だ」
「まだ何も言ってないのに!」
弔はなまえのお願いとやらを聞く前になまえの言葉を一刀両断した。
基本的になまえは
弔が怒ったり機嫌を悪くなることは敢えてしないし
なまえがそういうことを勝手にしないことを弔も理解している。
こうやってお願いがある聞くということは頼み事が弔にとってラインを越えるから聞いているのであって
もはや断られることがわかっている前提なのだ。
「どうせ自分も一緒に着いていきたいとかそんなんだろ?」
「なんでわかったの?!」
「絶対駄目だ」
「ダメ?」
「わざわざなまえを危ない所になんて行かせられない。しかも雄英の餓鬼の何人かに顔割れてるって言ってだじゃん」
以前、連れていかないという話を聞いていたからここまでは想定内。
普段なら駄目だと言われたらあっさり折れるけれど、
しかし今回のなまえの決意は固かった。
「でもちょっと脳無のことが気になるの。私は表には絶対出ないし何もしないしそもそも出来ないし、危ないこともしない。だから、ね?」
お願い、弔。とじっと上目遣いで見つめられる。
そんな顔されたら断れるわけないだろ、と溜息をつき、
「わかった、
でも念の為顔を隠すマスクを作らせるからそれを外さないことと、
絶対1人にならないこと。
個性はこっち側の人間がどうなろうと使わないこと。
約束出来る?」
「約束する!!ありがと弔!」
私ドクターの所に行ってくるね!
と嬉しそうにバーを出ていく姿を見送りながら一層深い溜息をついた。
「貴方も案外大変ですね死柄木弔」
「ったく…
黒霧、万が一何かあったら真っ先になまえ戻してこい」
「はい。しかしまずは何も起こらないような策を考えましょう」
「まずは裏のデザイナーに連絡する。
今回の開闢行動隊の連中でもなまえのこと見たことない奴には知られたくないしな」
かと言って1人には絶対させられない。そうなると、なまえが気にしてるのは荼毘用に改良した脳無のことだから必然的に荼毘と
後はなまえと面識のあるトガかトゥワイスかマグネあたりか…
効率のことも考えないといけないしな
としばらく頭を悩ませる弔だった。
一方その頃
「なまえ」
「先生?どうしたの?」
ドクターとの用事を終えたなまえにオール・フォー・ワンは声をかける。
「さっきの聞いてたよ、なまえも林間学校行くんだね」
「弔のこと困らせちゃったかな」
「いい選択だと僕は思うよ」
これから弔が自分で考え、行動しようとしている。
その上で弔の行動の軌道修正の提案が出来るのはなまえだけ。頭の回転の早いなまえの策は弔にとって有利に働くことは間違いない。
今回はまずその先駆けだ。
そして物事が大きく動けば、状況も変わり
そうすればきっと2人が自分の手から離れる日がやってくる。
「先生?なんか変、体調あんまり良くないの?」
「そんなことはないよ。
さぁ、そろそろ戻りなさい、遅くなると弔が心配するよ」
「?」
勘がいいなまえにこれ以上悟られないよう適当に誤魔化し弔の元に返した。
「ただいまー」
「おかえりなまえ
なまえのマスクできたよ」
出かけている間に大急ぎで発注したマスクが完成していたようだ。
「これ…なんか本当のガスマスクみたい?
私にはきっと今回いる子の個性の有毒ガスは効果ないと思うんだけど…」
「なまえの個性を知らない奴へのカモフラージュにもなるし、顔隠すのにはちょうどいいだろ」
すっぽりと目元以外鼻も含め顔を覆うマスク。形はガスマスクのようだけれど、思ったより軽い。
本来は毒を解毒する薬をいれる横のでっぱりはなまえには必要ないけれど
そのおかげで本当にこれを付けてしまったら誰だか分からなかった。
「これは?」
マスクの口元を中心に、普段弔の顔面や身体を覆う掌のような刻印が施され、
そこからリングと鎖が伸びていて、何故か全く必要のない首につけるベルトチョーカーと繋がっている。
「これで開闢行動隊の誰から見てもなまえは俺のものって分かるじゃん」
「なるほどそうですか…」
結局なんだか楽しそうな彼を見ながらあとは念の為ウィッグでもしようかなと考えるなまえだった。