隣同士が一番自然


「やったあ…!!」

なまえは手元の採用通知を握りしめ、思わず声をあげる。
そしてタイミングよく鳴るスマホの電話。

「はい、みょうじです、はい、はい、ありがとうございます…!!もちろん4月から働かせていただきます!」



(夢じゃないよね?!)



「就職先、決まったー!!!」

なまえは今月末、田舎の国立大学を卒業をする大学4年生。
高校までは割と都会で育ってきたが
高校3年の時に父親の会社が破産。
一家で田舎に引越し細々とした生活を送っていた。

大学には家から近いところに奨学金制度を使い進学した。
しかしいざ、就職活動となった時
奨学金を返し、家計を支え、自立して行くには田舎の会社では収入があまりにも足りなくて。

なんとか都会で就職したいと考えたものの、わざわざ田舎暮らしのなまえを雇ってくれる企業や会社などどこにもなく。
卒業間際、焦りに焦ったなまえがラストチャンスとして受けたのが、
今回採用の連絡を受けた職場だった。



「引越しとか!なんか色々準備しないと…」

と思ったものの、
一人暮らし経験もないしどこに住むのがいいのかも分からない。


途方に暮れたなまえは年上の既にプロヒーローとして活躍をしている幼馴染みの2人にメールを送ることにした。



「えーっと…
『忙しいのに突然ごめんなさい。実は2人の事務所がある近くで来月から就職が決まりました。
引越しのことなど、良かったら時間がある時にでも相談に乗ってください。』

よし、これでいいかな」


何度か画面を確認して、送信ボタンを押す。

「あ、」



まだ両親に就職決まったことを伝えていなかったことを思い出したなまえ。


「おかあさーん!」

隣の部屋にいる母親の元に走った。






そして数時間後。

着信の知らせにスマホが震える。

ディスプレイには


『かっちゃん』

の文字。

慌てて電話に出る。

『よォ』

「かっちゃん?久しぶり!今電話平気?」

『へーき
んでさっき送られたメール見た。なんで急にこっち戻ってくることにしたんだよ』

「それがね…」

なまえはかくかくしかじか、

元から何故自分がこっちに越してきたか知っているため、幼馴染みには隠さず、自身の家の状況を話す。



『つか就職困ってたならもっと先に言えよ、俺の事務所でなまえ1人雇うくらいなんてことねーぞ』

「そんなそんな、それはさすがに頼りすぎだよ」

『で?
職場の近くで家を借りるならどこかって話だろ。
あそこら辺は家賃高ぇからな』



相場を聞いたなまえはスマホを落としてしまうかと思うくらい驚く。



「た、たっか…!!
待って、家賃払って家に仕送りして奨学金返済したら給料なくなる?!生活できない…!!
いやでも、交通費は出るから片道2時間くらいなら通えるし少し都心から外れたところに住めば…」

『オイ、なまえ落ち着けや


そしたら俺ん家くるか?』






…??おれんちくるか…

……??



ってかっちゃんの家ってこと!?!?」

『部屋なんてクソほど余ってるし一部屋貸してやるよ』

「いや、いや、ちょっと待って、それはダメ、申し訳ないもん!」

『あァ?!それ以外おまえこっちで暮らす方法ねーだろ?!』

「でも…」

『なまえのかーちゃんもとーちゃんも俺のとこにいるんだったら安心だろ』

「うん…」

小さい頃から兄妹のように育った2人。親元を離れるとしても、両親もそれなら心配しないはず。


『家賃いらねーぞ』

「えっ!少しは払う!!」

『んな金あるならさっさと奨学金返せ』

「う…」

『職場まで1時間もかかんねーし』

「それは、ありがたい…です…」

『メシとか作ってくれたら俺も助かる』

「!!お掃除とか洗濯とか家事全般します!!」

『んじゃそれで頼むわ』

「かっちゃん…!!本当にありがとう…!!!このご恩は忘れません!いつかお返しします!」

『わーったわーった』

こうして引越しの日などを決めて、なまえは電話を切る。


そのあともう1人の幼馴染みからも電話がきた。



『なまえちゃん、就職先決まって、こっちに来るって、おめでとう!』

「出久くん!わざわざ電話ありがとね」

『それで相談したいことって…』

「あ、それがね」

先程決まったことを伝える。

『えっ!かっちゃんが?!
相変わらずなまえちゃんに対しては優しいなあ』

「そう?
でも嬉しいな。また出久くんやかっちゃんに会えるなんて」

『そうだね、楽しみにしてるよ』

「私も楽しみにしてるね」



こうしてなまえの新しい生活は急展開を迎えたのだった。