呆れるほど、鮮やかに


なまえがこの事務所で働き始めて数日が経つ。
仕事に関しては一通り誰にも頼らずなんとかこなせるようになった。

そしてスタッフについても大体わかってきた。
事務所に受付事務の自分が入ると
スタッフの実際の役割はサイドキックでだったり外回りだったりとで、あまりみんな事務所にいることが少ない。

きっと急に抜けてしまった前の受付事務の子の仕事を自分が来るまで分担して彼らがやっていたんだろうなあと思うと、
もっともっと頑張らねばという気持ちになる。

ということで今日は事務所に1人残り絶賛定時後も残業中のなまえだった。


(先輩たちは、明日の午前に手伝ってくれるって言ったけど今日中にこのデータはまとめておけば明日すぐに会議が始められるはずだもんね)




しかし広い事務所内、何となくこれまで生きていて身についた癖なのか
節約のために電気を最小限の範囲だけ付けて
ポツンと1人パソコンのキーボードをカタカタさせるのは少し心細くなってしまう。


気を紛らわすためにスマホで今日のネットニュースを開くと。

ヒーローが様々なヴィランを制圧したニュースが今日もトップ見出しに載っていた。
やはり最初に探してしまうのは見知った人達の名前で。

「かっちゃんも出久くんもすごいなあ…」

今日はかっちゃんも仕事で家には帰れないって言ってたしな…と思いながら
同じ並びにある

雇い主の名前。結局今日に至るまで1度も会うことは出来ないのだけれど
こうやってニュースになる前、他のスタッフから、ヴィラン集団を壊滅させたということを聞いていた。

ヒーローという職業は本当にすごい。

(よし、私もがんばろ、)

スマホを閉じて再びパソコン画面に向かったその時だった。


がちゃりと事務所のドアが開く音がする。


今日はもう他のスタッフは事務所に戻らないと聞いていたけれど、誰かの予定が変わったのだろうか。



「まだ誰かいんのか?」

その声は思いもよらない人物で。




「と、轟さん…!!」

突然の事務所のプロヒーロー兼雇い主の登場に思わずイスから立ち上がってしまった。

「アンタ確か…」

「え、えと!あのっ私っみょうじなまえと申します、この4月からこちらで働かせて頂いて、この度は本当にありがとうごじゃ…」

「「……」」

(た、大切な自己紹介か、噛んでしまったーー!!!)

穴があったら入りたい。

焦りまくりのなまえに対して

「そんなに慌てなくて大丈夫だ」

轟は少し笑って返す。

(あれ?)

暗くて顔ははっきり見えないけど、想像していたより全然

(優しい感じだ…)






「あと、暗くてあんま見えねぇから電気付けるぞ」

「で、てすよねー…」

ぱちん。轟が部屋の明かりスイッチを押すと事務所全体が明るくなる。

しばらく暗がりの中にいたため眩しさに少し目を細めた。


「悪かった、ここ最近事務所に戻れなくて。随分遅くまで仕事させちまったみたいだし」

「い、いえ!!全然大丈夫です!!皆さんすごく優しくて、轟さんの活躍も教えて貰って、
私も自分も出来ることやりたいなーって思っただけなので…」

「ありがとな。
俺もスタッフからみょうじがすごく仕事頑張ってるって話、聞いた」

「…っまだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします!」


「だからそんな畏まらなくていいって。これからも一緒に働くんだぞ」

「う、はい、どうしてもテレビで見ていたヒーローが目の前にいるの不思議な感じ…」


それに自分が思っていた人物像と全く違って、何だかドキドキする。



「みょうじ、これからもよろしくな」




これが2人の不思議な初対面だった。




「仕事、まだ終わらなそうか?」

「あ、いえ!明日使うデータをまとめていたので、もうすぐ終わります」

「そうか、終わったら家まで送ってく」

「へ?」

「今日、俺車だから」

「いやいやいや、そんな訳には!大丈夫です」

「でも電車もうないだろ」

「あ…」


時間はとっくに日付を越えていた。





「ごめんなさい、手間をかけさせてしまって」

「かまわねえ、ここからそんなに遠くないしな、みょうじはこっちで働きはじめて一人暮らしか?」

そう聞かれて、都会で暮らすお金が無くて幼馴染み(男)の家に居候してますと言うのはさすがに気が引けて

「実は今友達の家に住まわせて貰ってるんです」

とだけ返した。うんうん嘘じゃないもんね!


「あ、ここで大丈夫です。コンビニ寄りたいし」

「わかった。気をつけて帰れよ」

「はい、ありがとうございました!」

「じゃあまた明日な」

そう言ってなまえは車から降りた。


(轟さん、めっちゃいい人!!!)




轟は先程まで助手席に座っていた彼女について考えていた。

話す度に表情がころころ変わり、一生懸命な姿はまるで小動物のようで思い出すと自然と笑みが零れた。

「面白いやつ」

彼女を雇って良かった。そんなことを思いながら家路まで車を走らせた。