不意に、胸を疼かせた


とある休みの土曜日。轟焦凍は宛もなくふらりと近くのショッピングモールに1人で訪れていた。



(1人で来るもんじゃねぇな)

モール内は家族連れやカップルで溢れていて。
職業柄、私生活も何もないようなものだから仕方ないとは言え、一緒に過ごす恋人もいなく
1人ぼっちでうろつく自身に対し何とも言えない虚しさと少しの後悔を抱いた。

特に目的もなく歩いていたため、特に買いたいものも見つからず
まぁもう帰るかと思っていたところで。


ふと通り目に入った女性物のアクセサリーショップの前によく知った人物が立っていることに気がついた。
2人は今でもよく顔を合わせるのでわざわざ声をかける必要もないかと思ったが

折角なので





「爆豪」



と声をかけると
突然のことに少し目を丸くして今度はこちらの名前を呼ばれる。

「あ?…轟か」


「おまえこんな所で何してるんだよ、なんだデートか?」


爆豪が1人で女性向けの店に用事があるとは思えないし、
考えられるのはこれくらいなのでからかいがてら聞いてみた。

爆豪の返事より先に





「かっちゃーんお待たせ!」




女性の声が『かっちゃん』
と、爆豪を下の名前で呼ぶ。



『轟さん』
その、聞き覚えのある声に自分も呼ばれたことがある気がして心臓がドクリと音を立てた。






「みょうじ…?」


「…?え!轟さん!」


驚いた顔で返す彼女は間違いなく
轟焦凍のヒーロー事務所で働く
みょうじなまえ、その人だった。


思いもよらない組み合わせにこちらも上手く言葉が返せない。




「オイ、轟。
俺ら多分、おまえが考えてるようなやつじゃねーそ」

「?」

不思議そうな顔をして爆豪と轟の顔を見比べるなまえ。


しかしなまえはそりゃ何の繋がりも考えられない知り合いが一緒にいたら驚くよなと思い、


「あ、そっか。2人は高校からのお知り合いなんですよね。かっちゃんと私はもう少し小さい頃からの幼なじみなんです」


もちろん出久くんともですよ。

とニコニコと付け加える。



「幼なじみ…か」



2人が恋人関係ではないことを知り少しほっとする。



(って、別にみょうじが誰と付き合っていても関係ないだろ…)


何故自然と安堵の気持ちを抱いたのか轟自身にもわからなかった。


「でもなんか今はかっちゃんにお世話になりっぱなしだからお母さん…?いや男だからお父さん?うーん?なんだろとにかく保護者って感じがする」

「なまえみたいな手のかかるガキ持った覚えねーわ」

「うっ…返す言葉もありません…」


2人のやり取りはさながら仲の良い兄妹のようで。
轟から見た今の爆豪は、高校の時の態度に比べたら大人になって随分丸くなったとは言え
相変わらずのあの感じで。

しかしなまえに対して、言葉こそいつも通りに粗雑だけれど
言葉とは裏腹に優しい態度をとる爆豪に

面食らってしまった。


それにいつも自分のことを名字で呼ぶ彼女が
爆豪のことを、『かっちゃん』
と下の名前で呼び微笑む姿に

何故か胸の奥がチクリと傷んだ気がする。




そんな時だった。



「敵の襲撃だー!」



という声にはっと意識が引き戻される。
そしてモール内に緊急を知らせる音が鳴り、辺りは騒然な空気に包まれた。


「轟!!」

「わかってる」

「なまえは指示に従って避難しろわかったな」

「は、はい!
あの、二人とも…気をつけて!」

2人を気遣うなまえに
心配するなと伝え、2人は敵の襲撃現場に向かった。