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ヨハンさんと一緒に作業部屋へと入り、それぞれの席へ向かう。そして明日香さんと、その隣の由季さんに挨拶を交わしてから、ふとあることに気がついた。

由季さんの隣の席にも女性が座っている。
黒髪で、肩のあたりの髪の毛が左右に跳ねているというヘアスタイルだ。彼女は私の視線に気付き、微笑んでくれた。


「あっ!貴方が中途で入ったユリちゃんね。私はももえ。同じ事務課よ。よろしくね」
「あ、はい!よろしくお願いします」
「実はここ数日熱出して欠勤してたの。もうすっかりよくなったから、何かわからないことがあったら遠慮なく聞いてね」
「はい!ありがとうございます!」


ぺこりと頭を下げると、ももえさんはにこっと微笑んでくれた。しかしここは本当に顔面偏差値が高いお方ばかり揃っているなぁ、なんてぼんやり考える。



「あっ、エドがきたわ」


不意にももえさんがそう言った。
それに続くように、室内の女性社員たちが一斉に色めき立つ。

エド、という名前を聞いて私は心臓がどくりと音を立てたのを感じた。
否が応でも昨日の夜のことを思い出してしまう。「君のことを捕らえてもいいかな」というのは、一体どういう意味なんだろう。


「おはようございます、エドさん!」
「今日も素敵ね、さすがだわ」
「はは、ありがとう」


エドさんは次々に声をかける女性社員たちに、愛想よく返事を返している。
少し迷ったけれど、エドさんの方をちらっと見やると、エドさんは私の視線を受けてにこりと微笑みを返した。私は目を見開いた後すぐに視線を元に戻す。余裕の感じられる表情だった。


「(…動揺しすぎだよね、私…)」


そうは思っても、どうしても昨日の言葉の意味を考えてしまう。やがて始業のチャイムが鳴り、気持ちを切り替えるべく私は深呼吸をした。




「…はぁ」


ひとり、給湯室でお湯を沸かしながらため息をつく。朝から余計な思考ばかりが頭の中を巡ってしまって中々仕事に集中することができなかった。

あったかい飲み物でも飲んで少し落ち着こう、と考え、私はタンブラーに紅茶のティーパックをすとんと落とした。


「まったく、エドさんみたいなイケメンの考えることは分からないや…」
「へえ、ボクがなんだって?」
「っ?!」


独り言に対して返事が返ってきたことに驚いて身体を硬直させる。入口の方を振り向くと、エドさんが壁にもたれかかって横目でこちらを見ているじゃないか。


「やあ、ユリ。昨日は素敵な時間をどうもありがとう」
「い、いいえ。こちらこそ、ありがとうございました…」


うまく目を合わせることができず、視線を泳がせたまま私はお礼を言った。エドさんはくすりと笑ってそのまま私の方へと歩みを寄せる。そして私の目の前まで来るとそこで立ち止まったではないか。


「あ、の…?」
「少しはボクのことを考えてくれているみたいだね。光栄だよ」


少しどころか昨日の夜からずっと貴方のことで頭がいっぱいです。なので少し困っています、なんてことは言えるはずもなく、私は答えを返さなかった。
エドさんは楽しそうに目を細めると、私の顔を覗き込んできた。目を合わせざるを得なくなってしまって、私は思わず息を飲む。


「目が合ったね、ユリ」
「…っ」


ささやくような声。
青くて綺麗な瞳がまっすぐに私の視線を捕らえて離さない。
早くお湯が沸いてくれればいいのに。そしたらそのお湯をタンブラーにとっとと注いで、作業部屋に戻る口実ができてエドさんから離れられるのに。


「ところで、君はヨハンととても仲が良いらしいね」
「…とてもって程じゃないと思いますけど」
「噂で聞いたんだよ。どうやら君とヨハンはとても気が合うらしいじゃないか。同じ宝玉獣好きとしてね。それなら彼を警戒しておくのは当然だろう?」


別に警戒する必要なんてどこにもない。
一緒にいて楽しいというのは事実だけど、ヨハンさんは私のことをただの仕事仲間としか思っていないのは明白なのだし、逆もまたしかりなんだから。

エドさんは瞬きをひとつすると、ようやく私から目線を離してくれた。


「ボク以外の男と一緒に帰るなんて、妬けてくるな」
「え…」
「ボクにも今度君を送らせてくれないかい?」


疑問形ではあるけど、拒否権はないというような言い方だった。少しためらったけれど、私は黙って小さく頷く。するとエドさんは満足したように微笑んだ。


「良かった、楽しみにしてるよ。それじゃまた」


くるりと背中を向けてエドさんは給湯室を去っていった。そのすぐあとに私の背後で、お湯が沸いた合図の音が響いた。

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