9
「はぁ、はぁ…」
お互い、上がった息を整える。
槙島さんは私の両脇についていた腕をどけて上半身を起こすと、「ふう」と息を吐いた。
その額にはしっとりと汗が滲んでいる。
一瞬見惚れてしまった自分がいたけれど、すぐに我に返った。
慌てて床に放られた下着や服に手を伸ばそうと身体を起こすと、鈍い痛みが下腹部に走る。
「…っ」
「もしかして、痛むのかい?」
「別に、なんでもありません」
悟られないよう、平静を装って下着を身につける。一方槙島さんはスマートな動作で衣服を着て、元の格好に戻っていた。
ズキズキと鈍い痛みに耐えながらも服を着ていると、後ろからふわりとシャツブラウスを羽織らせてくた。
けどここでお礼を言うのは違う。
そもそも私は彼に無理やり脱がされたんだから。
「すまなかったね、ユリ」
「え?」
「最初は本当に話をするだけのつもりだったんだ。けど、君と話しているうちにどうしても君に触れたくて仕方なくなった」
「…そんな理由で、許すと思ってるんですか」
「いいや、思わない。ただこれだけは聞いて欲しい。…僕は君が欲しいんだ」
どくん。心臓が大きな音を立てる。
背後から伸びてきた、白い腕。それが緩く私を包み込む。
「誰かにこんな感情を抱くなんて初めてだ。自分のそばに置いておきたい。誰にもに渡したくない。君の全てを手に入れたい。…強くそう思う」
「…っ」
「けど、何が正解か分からないんだ。どう行動すべきか分からない。…僕らしくない」
少しだけ、腕に力が込められる。
そして首筋に彼の唇がそっと触れる。
なんて声を出すんだろう。切なくて悲しそうで、でも行き場が分からないーまるで迷子の子供みたいだ。
「全く加減ができなかった。身体に負担をかけてしまったお詫びに、家まで送らせてくれないか」
「いえ、お断りしま…っ」
回された腕を振り解いて立ち上がろうとすると、ズキンと痛みが走った。その上、絶え間なく与えられた快感のせいで気怠い身体。
「…今、車を出してくるよ。少し待ってて」
槙島さんは私を気遣うようにそっとソファに押し戻すと、自分は立ち上がって玄関へと向かって行った。
「…」
身体中がまだ熱い。
彼が私に触れた感触が、深く深く刻み付けられたみたいだ。
熱いキスも、慈しむような視線も、行為中に見た彼の恍惚とした表情も、何もかもが私の思考を支配する。…この感情は、なに?
「ない。有り得ない。絶対…っ」
どきどきと早鐘を打つ心臓を抑えながら、私は小さく首を振った。
1/19
prev next△
戻る
Top