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槙島さんの車の助手席に座り、尋ねられた通りに道案内をした。
自宅を知られるのは少しまずいとは分かっていたけれど、下腹部の痛みには変えられなかった。

ーそれにしても。


隣で運転している槙島さんを、横目でちらりと見る。憂いを含んだ眼差し、長い睫毛、透き通るような肌。女性ですら羨むであろうその美貌。

どうしてこんな完璧な人が、私なんかに関心を持つのだろう。言い寄ってくる女の人なんか他にはいて捨てるほどいそうなものなのに。


そんな疑問を持ったけど、まるで「私も貴方に関心があります」と言わんばかりの質問になってしまうと思ったのでやめおいた。


「(…そう、私が好きなのは慎也君なんだから…)」


頭の中に浮かんだ彼の凛々しい表情。
胸がちくりと疼いた。








「…ここです」


一人暮らしのアパートの前で車を停めてもらう。槙島さんは建物を一瞥すると、「そう」と答えた。やっぱり一人暮らしだったんだね、とは言わなかった。


「まだ昼前だ。大学にはこれから行くつもりかい?」
「いえ、とりあえず休もうかと思ってます。…それじゃ」


無理矢理とはいえど、つい先ほど身体の関係を持ってしまった相手だ。それを意識してしまうとろくに目を合わすこともできず、私は車の取手に手をかけた。


「…ユリ」
「え?…んっ…」


空いていた方の手を握られて、思わずそちらを振り返るとすぐそこに綺麗な顔があった。鼓動が高鳴ったと同時に重なる彼の唇。

唇はすぐに離れたけれど、槙島さんの顔はまだ近くにある。彼はポケットから何かを取り出して私に手渡した。


「忘れ物だ」
「あ…」


定期入れ。
そうだ、そもそもこれを返してもらうために槙島さんについていったというのに忘れていた。なんて間抜けなんだろう。


それを受け取ると、槙島さんの手がそっと私の頬に触れる。それに警戒しなくなった自分がいることに驚く。

それどころか、その手の温もりが、感触が、彼が私を見つめる綺麗な金色の瞳がー、




わたしを、 く る わ せ る 。




「…っ、さよなら」


絡み合う視線を引き剥がし、私は車のドアを開けてそこから飛び出した。振り返ることなく、なるべく急いでアパートの階段を登っていく。

早く家に入ろう。
それでさっきまであったことなんて全部忘れてやるんだ。


背後で車のエンジンがかかる音。
私は家の鍵を取り出して玄関のドアを開ける。

勢いよく室内に入って、息を切らしながらそのまま崩れ落ちた。


エンジン音がどんどん小さくなっていく。
その音が完全に聞こえなくなった頃、私は涙を流していることに気がついた。



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