16



2人分の体重でベッドのスプリングがギシリと音を立てる。槙島さんは私をベッドに横たえると、上に覆いかぶさって私をじっと見つめた。



私も彼の目を見つめ返す。
その瞳の中に慎也君が滲むことはない。

それをはっきりと言葉にして説明すべきなのに、そうする前に槙島さんの長い指が私の顔の輪郭をなぞった。


「…まだ夢を見ているみたいだな」
「そんな。大袈裟ですよ」
「いいや、僕は君にひどいことをした。もう会えなくなる可能性だってゼロじゃなかったはずだ」
「…でも、また会う事になるって分かってた。そうですよね」
「ああ」


指先が唇に触れる。
長い睫毛が金色の瞳に影を落とす。僅かに上がった槙島さんの口角。


「君も僕も、互いを欲してるはずだからね」








全身にキスが落とされていく。
ルームウェアを着てきてしまった事を若干後悔したけれど、それを感じ取ったのか「心配しなくていい。ユリは可愛いよ」と言葉をくれた。

胸の先端をちゅっと吸われ、吐息が溢れる。


「君はここが弱いね」
「…っ、見ないで、ください」


先ほどよりも強く彼の唇に吸い上げられる。もう片方も指先で弄ばれたり揉まれたりして、それらの刺激は私をゾクゾクさせるのに十分だった。


「ん、ぁ…っ」


槙島さんの舌がお腹をつたっていく。
彼の手が恥骨に触れ、身体を固くする。

それに気づいたのだろう。強弱をつけて執拗にそこを撫でられて、私は快楽に耐えようと奥歯を噛み締めた。


「ここもだ」
「…も、言わないでください…」


羞恥から涙が溢れそうだ。
与えられ続けた愛撫と口付けで簡単に潤ってしまった私の中心に、槙島さんは指を侵入させた。


「っあ…!」
「こんなに濡れてる。気持ちいいの?」
「ゃ…っ、んん、待っ…」


骨張った、長い指。
それが私の弱いところを探り当てる。

指の出し入れを繰り返しながら、槙島さんは私の耳朶を甘噛みする。無遠慮にぬるりと入り込んできた彼の舌に、思わず背をのけぞらせた。



「ぁ!やめ…っ、それ、だめ…」
「…イイって事だね。またひとつ、君の弱いところを知ることができた」



フ、と微笑んでいる。

あまりの快感に、やめて欲しいと彼の筋肉質な腕を掴んでも、胸板を押し返しても、それは槙島さんにとって無意味に等しい。

やがて顔を上げた彼と視線が絡んで、私は静かに口を開いた。



「…槙島さん、聞いて欲しいことが…あるんです」
「何かな」
「私の…気持ちを」


彼の動きがぴたりと止まる。
カーテンの隙間から漏れた月の光が、ほのかに私と槙島さんの姿を照らし出している。




「私は…あの写真の人…。慎也君の事が、好きで…大好きで」


私が紡ぐ言葉に、僅かに眉間に皺が寄せられる。明らかに不快だという表情をしていた。


「今ここでその男の名を出すのは、あまりいただけないな」
「…聞いて、ください。…私は彼のことが好きだった≠です。槙島さん、あなたに抱かれたあの日までは」
「…え?」
「私は、小さい頃から慎也君のことが好きでした。彼は幼なじみなんです。その想いは、大人になってもずっと私の心の中にあり続けた」




好きだった。
大好きだった。


何度も何度も連絡を取りたかったけれど、その勇気がなくて。彼から「元気か?」と他愛のないメールが来ただけでも、怖いくらいに幸せで満たされて。


会えない日々の方が圧倒的に多い中、今彼は何をして誰といるんだろうと考えた。苦しいぐらいに蠢くこの感情がなぜ報われないんだろうと考えただけで涙を流す日もあった。


でも私は彼にとってただの幼なじみでしかない。それ以上でも以下でもない。


その事実が日々少しずつ私の心をすり減らしていっていたことに、気づかないフリをしていたんだと思う。

誰よりも慎也君の事が好きなんだという気持ちを盾にして。



「槙島さん、あなたに抱かれた時、私は…。あの時は認めたくなかったけれど、心のどこかで満たされていました。あなたは私を心から求めてくれたと、そう感じたんです」

「…ああ」

「ずっと考えてたんです。慎也君に一方的に向け続けていた気持ちは、どこへいってしまうんだろう。雪みたいに溶けて消えていってしまうのかな、って」


目頭が熱くなって。
次々に涙が溢れ出す。


「…もう、ずっと前から限界だったんです。私は寂しかった。自分の気持ちに…耐えられなくなっていた」

「…」

「でも、槙島さん…あなたは、私を心から求めてくれた。それが、嬉しかった。初めて、誰かに必要としてもらえた気がした」



私から彼の頬に手を伸ばす。
白くて滑らかな彼の肌を掌に感じた。



「…私の孤独を、」
「…僕の、孤独を」


埋めることができるのは。


「あなたです」
「…君だ」



他の誰でもない、今目の前にいる存在だと。
お互いが確かに、そう認識し合っていた。


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